芥川賞受賞作
後味の悪い小説だ。面白くないとは言わないが、読んで楽しくもない。芥川賞受賞作だから読んだけれども、そうでなかったら手に取らなかっただろう。
ただ、文章はうまい。濃密な描写できちんとしている。ただし、やや硬質だ。とても三十代の作品とは思われない。なぜかと考えて、難しい漢字が多用されているのだと受け止めた。この頃は漢字を避けて平仮名を多くする傾向があるから、これはかえって異質だ。
僅かに、些か、捲る、鶏鳴が響く、纏めて、などとあると、かつては遣っていたから読むに難しくはないものの、この頃ではよほどの年配でもないと普段遣いはしないとは思う。文体に特徴のあることは大事だが、この効果はどうなのか、そのことで積極的な意味が見いだせなかった。ましてや、橋架を渡るなどと遣っては無理が強くて、自分の言葉になっていないようにすら感じられた。まさか、ワープロで変換して、難しそうな漢字を選んだわけでもないだろうが。
(「文藝春秋」9月号所収)