ABABA’s ノート

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佐々木譲『警官の掟』

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禁忌に踏み込む
 指名手配中の殺人犯を追う大井署地域課の波田野涼巡査と門司孝夫巡査長。湾岸エリア、城南島の巨大倉庫に追い詰める。遅れて第一自動車警ら隊の松本章吾巡査と能条克巳車長が駆けつける。波田野と松本は警察学校の同期である。犯人は銃を所持し女性を人質に取っていたが、松本の助けによって無事人質の女性を解放し、犯人を確保する。ただし、銃撃戦で波田野が膝を撃たれ負傷する。
 7年後。波田野は巡査長に昇進し蒲田署刑事課にいた。そこへ巡査部長に昇格した門司も配属になってやってきた。
 折から、暴力団小橋組の幹部深沢隆光が東糀谷で殺されているのが発見された。脇腹に銃創があった。
 暴力団同士の抗争による単純な犯罪と見られ捜査本部は立てられなかった。つまり、捜査は所轄の蒲田署にまかされたということ。波田野と門司は7年ぶりにコンビを組むことになった。
 しかし、単純そうに見られた事件だったが、捜査は進まなかった。外国人支援団体との関わりなどが浮上したものの決定的な方向は見いだせないでいた。
 一方、波田野と同期だった松本は巡査部長に昇進し捜査一課に配属になっていた。
 ある日、松本は綿引警部補とともに伏島管理官に呼ばれる。2年前に外国人パブの経営者室橋謙三が殺害された事件と深沢殺しとは殺害方法が似ているという。
 しかも、警察官による犯行の可能性があり、蒲田署とは別に警察内部の犯行という仮説のもと極秘に捜査するよう命じられる。
 冒頭からまるでアクションドラマみたいに派手に始まった物語だったが、所轄の捜査と捜一の隠密捜査とどこでクロスするのか、興味津々と進むこととなった。
 著者佐々木譲は、8作まで続いている道警シリーズや『制服捜査』『警官の血』などとあって今や警察小説の第一人者。情感たっぷりに事件を追う警察官を描いて人気。
 その著者による本作はちょっと変わった設定で、マンネリを嫌ったものであろう。実際、我が国の警察小説は全盛時代を迎えてバリエーションは豊富であり、独創性はますます難しくなってきている。ただ、小説家はそこを乗り越えないと喝采は浴びられないわけではある。
 また、本書の設定と結末はいかにも奇をてらっていて、禁忌に踏み出したような危うさが感じられたし、王道を進んで欲しいと思われた。
(新潮文庫)