ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

本の雑誌編集部編『絶景本棚』

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羨ましい書棚
 『本の雑誌』に連載された「本棚が見たい!」を単行本化したもの。30数名の作家や評論家、編集者などの書棚がカラー写真で紹介されている。
 他人の書棚を見るというのは、のぞき見のような面白さがあり、どのような本を読んでいるのか興味があるし、どのように本を整理しているのかという関心もあって参考になる。
 どのように本を収納しているかということでは書棚、書斎、書庫にそれぞれに工夫が見られたが、羨ましいと思ったのは松原隆一郎という人の書庫。地下1階、地上2階建てのらせん状書庫に1万冊の本が収められていて圧巻。整理も行き届いていてまるで図書館のような趣きだ。
 ただ、本書に登場した人たちは書斎はもちろん書庫までも持っているような恵まれた人たちで、書斎はおろか書棚の置き場所にも頭を悩ましている大方のサラリーマンには、ため息が出るばかりであまり参考にならないようだ。また、書棚は1列に使っている人が多くて、私のように2列に押し込めるだけ押し込んで使っているものから見れば贅沢な使い方だ。
 私はここに登場したような人たちほどの蔵書ではないが、それなりに本の置き場所には困っていて頭を抱えている。
 本は捨てるなどということはできないし、かといって、図書館に寄贈したくとも受け付けてくれないし、古書店も引き取りもしない。よほどの貴重な本はともかく、ぞっき本のごとき本はただでもいらないという。いつだったか、岩波文庫を専門に扱っている神保町の文庫川村に、岩波文庫を約1千冊ただでもいいからもらってやってくれないかと頼んだことがあったのだが、断られたことがあった。あるいは本当の話と信用されなかったのかも知れない。
 ことほどさような状況だが、捨ててしまえば文化はそこで途切れる、大げさに言えばそういうこと。
 大江健三郎さんは、東日本大震災を機に、おそらく本の重みによって住居が倒壊することを恐れたのだろうが、蔵書を焼却処分したと何かに書いていた。大江さんは傍線を引いたり書き込みの多い読み方らしいから、古書店に出したりすると、なまじ〝大江の本〟として流通することを避けたものかも知れない。それが、処分したあとで、とんでもないことをしてしまったと悔やみ茫然としたとあった。
 私も狭いながら少ないながらに本の置き場所置き方には工夫を凝らしている。一つは、和室の床の間を本の置き場所とすることで(長期にわたる困難な交渉の末)家内の了解を得ている。ここに本棚を立てると半永久的になってしまうから、本を直接積んでいくのである。棚と違って無駄な隙間がないし、一間の床の間いっぱいに本を並べられる。これを二段三段と重ねていき、さらに二列三列と並べていくと思いのほか大量の本が収められる。崩れることを防ぐためにも隙間なくびっしりと並べていくことがコツ。ただし、積むのは六段がいいところである。見映えは悪いが、客は通さないことにしている。
 もう一つ工夫したのは、本棚の脇つまり横の面に文庫専用の棚を作り付けたことである。隙間棚の要領で、棚は段数がきっちりと12段、幅は本棚の奥行きと同じだから約30センチ。何ほどのスペースでもないが、それでも260冊ほどは並べられる。
 ところで本書に戻ると、本の背を見るのも楽しみなのだが、率直に言うと、内容的にはあまり興味を引くような書棚は見当たらなかった。まあ、それぞれに専門があるのだろうし、好き好きのことではあるが。別に岩波文庫が偉いというわけではさらさらないが、とにかく岩波文庫が並んでいる書棚を持っている人はほんの数人と驚くほど少なかった。
 感心したのは川出正樹さんという人の書物構成。ポケミスがずらり揃っていてこれは圧巻で、ミステリー好きとしては涎が出るほどのうらやましさ。書評家らしいが、とにかくミステリー本の蔵書には感心した。
(本の雑誌社刊)