ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

映画『終わった人』

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(写真1 映画のチラシ)
定年は生前葬?
 定年を迎えた男が、時にシリアスに、時にコミックに描かれている。内館牧子の同名小説の映画化。監督中田秀夫。
 田代壮介(舘ひろし)は63歳で定年を迎えた。東大を出て大手都市銀行に入り、順調な出世コースを歩んでいたが、途中から社員数30人にも満たないような小さな子会社に出されそのまま専務で定年となったのだった。
 明くる日からなすすべもない生活が始まった。夢なし、趣味なし、仕事なし、居場所なしの生活に田代は茫然とし、これはまるで生前葬だとまで感じるようになる。
 エリートだった昔を振り返っては愚痴ばかりを言う田代に対し妻の千草(黒木瞳)からついに愛想を尽かされてしまう。「思い出と闘っても勝てない」というのに。
 ついには妻から「卒婚」だとまでいわれてしまった田代は、傷心を抱えてふるさと盛岡に帰る。
 そこには高校時代ラグビー部だった仲間がおり、それぞれに新しい生きがいを見つけていて、「まだ終わっていない」ことを諭される。
 やがて田代はNPO法人に会計としてボランティア活動をするようになり、妻千草も訪れて「月1回は白髪染めに来て上げる」と元気づけられる。
 実際、何の準備もしていなかったサラリーマンにとっては突然突き放されたようなもの。再就職しようにも条件のかなうようなところはおいそれとは見つからないし、なまじなかつての経歴は採用側にも躊躇されるのだ。起業しても退職金を使い果たしてしまうケースも多そうだし、年金だけの生活では家に閉じこもってばかりになってしまう。それこそ女房に愛想を尽かされる。
 何かうまい手立てはないものだろうか。高齢化社会においては日本の損失にすらなりかねない。何かサゼッションはないものか、そう思って映画を観ていたら、高校時代の仲間は、ある男はプロボクシングのレフリーに転身していたし、ある男はNPO法人を立ち上げてボランティア活動を行っていた。田代はともかく居場所を見つけたが、多くの人が参考となるような解は見つからなかった。
  なお、この映画は試写会で観た。ロードショーは6月9日から。