ABABA’s ノート

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特別展「運慶」

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(写真1 特別展「運慶」の会場入口の様子)
傑作が揃い圧巻
 興福寺中金堂再建記念特別展として東京国立博物館で開催されている。
 東大寺南大門の入口で睨みを利かせている金剛力士立像吽形・阿形2躯で親しまれ日本でもっとも著名な仏師であろう運慶の傑作が揃っていた。奈良・興福寺のみならず静岡・願成就院や神奈川・常楽寺などと全国から集まった運慶作として現存31躯とも35躯とも伝わる仏像のうち実に21躯が展示されていて圧巻だった。ほかにも父親の康慶や息子の湛慶などと慶派一族の作品もあって見どころが多い。何しろ運慶展としては史上最大規模だということである。
 運慶のデビュー作といわれる「大日如来座像」(国宝、奈良・円成寺)は鋭い眼差しから緊張感が伝わってくるし、「毘沙門天立像」(国宝、静岡・願成就院)は生き生きとしていて誇張の少ない写実性が感じられた。
 また、「八大童子立像」(国宝、和歌山・金剛峯寺)では6躯が出品されていたが、このうち衿羯羅(こんから)童子立像は可愛らしさまで感じられて表情豊かでリアルだったし、制多伽(せいたか)童子立像は目に力があり頬の肉付きも良くて生き生きとしていた。
 運慶仏の魅力は、まずはその写実性であろうか。表情が豊かだしまるで実在の人物をモデルにしたように思われる。事実そうだったのかもしれないが、これは運慶の独創性であろうか。また、玉眼を多用していたのも運慶の特徴のようで、これによっていっそう表情が生き生きとしていた。
 頂点は、「無著菩薩立像」と「世親菩薩立像(国宝、奈良・興福寺)の2躯であろう。見ていると感動が襲ってきて体が震えるようだった。ともに2メートル近い大きな一木造りということだが、圧倒的存在感があった。無著と世親は兄弟で、インドの僧とのこと。実在の僧をそのまま仏像に彫刻したのではないかとさえ思われた。
 無著菩薩立像には慈しみがありやさしく語りかけながらどこかに愁いも感じられて難しくも不思議な魅力に溢れた仏像となっていた。また、世親菩薩立像には気難しさがありながらも何事も見透かす鋭い眼光が感じられた。
 それにしても運慶仏は、仏像としての有り難みがひしひしと伝わってきて、いつまでも拝んでいたい気持ちになったと当時に、これは彫刻作品としてはもうミケランジェロやロダンを超えているのではないかとさえ感じ入ったのだった。そうすると、運慶は平安末期から鎌倉初期の人だが、我々は千年近くも前から世界を超える彫刻作品とともあったということにもなろう。

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(写真2 運慶作「無著菩薩立像」(部分)=会場で販売されていた絵はがきから引用)