ABABA’s ノート

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画期的なクローン文化財

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(写真1 クローン文化財として再現された法隆寺釈迦三尊像)
藝大が失われた刻の再生
 上野の藝大美術館で、シルクロード特別企画展「素心伝心-クローン文化財 失われた刻の再生」と題する一風変わった展覧会が開催されている。
 会場に入ると思わずびっくりする。何と法隆寺金堂の釈迦三尊像が鎮座しているではないか。しかし、この仏様は門外不出なはずなのにと不思議に思うと、実はこれが釈迦三尊像のクローン文化財だったのである。
  クローン文化財とは、東京藝術大学が開発した技術によって高精度に複製された文化財のことで、藝大では最先端のデジタル技術などを駆使し、絵の具などの成分や表面の凹凸、筆のタッチまで忠実に再現しており、原本と同素材、同質感であるだけでなく、技法から文化的背景、精神性など芸術のDNAに至るまで再現することで文化財のクローンを生み出している。
 これによって、保存と公開という両立の難しい文化財の課題を解決することに成功しており、国際社会からも大きな期待が持たれている。
 今回公開されているのはこうしたクローン技術で再現された文化財で、金堂の仏像ばかりではなく壁画もあり、さらに敦煌莫高窟の仏像などとシルクロード各地の文化財が含まれている。
  金堂に入ってみよう。まず、釈迦三尊像が出迎えてくれる。中尊の何と慈しみのあることか。実際の金堂よりやや明るいか。そのためか子細に見ることができる。やや面長の特徴ある顔立ちが優しげだ。金堂には何度も通った。立ち去りがたい有り難みをそのつど感じていたものだが、このたびのクローンはじっくり見るということでは最適だ。私の記憶の限りでは古色ぶりも質感も含めて寸分違わぬ複製ぶりだ。

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(写真2 金堂壁画もクローン技術で複製された)
 周りには壁画が張り巡らされている。これもクローン文化財だという。実際の金堂では薄暗くて壁画の細部にまでは目の行き届かないことがしばしばだから、このクローンを見て感心した。そうすると壁画は何と色彩豊かだったのだ。しかも、現在の壁画は火災によって焼損しているのだが、複製された壁画は焼損前のオリジナルが再現されているのだった。
  展示室内には、お経が流れ、お香の香りまで漂っていて、なかなか凝った演出だった。
  次からは、シルクロード各地のクローン文化財が展示されていた。敦煌莫高窟があり、キジル石窟があった。バーミヤンではクローン文化財にも興味深かったが、破壊された暴挙にも改めて心を痛めたし、こうした失われてしまった文化財にもクローン技術は適用できるようで、これは大きな技術だと感心したのだった。

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(写真3 台座から天蓋などに至るまで復元された釈迦三尊像の全体)