ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

三度目の十和田市現代美術館

f:id:shashosha70:20170924203153j:plain

(写真1 十和田市現代美術館外観)
スタンディング・ウーマンに会いに行く
 津軽海峡に向かう途中、東北新幹線を七戸十和田駅で下車し、十和田市現代美術館を訪ねた。
 この駅で降り立ったのがこれが初めてで、新幹線らしくまだ新しい立派な駅舎だった。駅前も再開発が進められているようで、あまりに変貌してしまって記憶も定かではないが、ひょっとするとこのあたりは今は廃線となってしまったがかつての南部縦貫鉄道七戸駅の跡地周辺ではないかと思われた。南部縦貫は野辺地駅と七戸駅を結ぶまことに小さなローカル私鉄だった。
 七戸十和田駅からはバスで十和田市を目指した。新幹線ダイヤに連動しているらしく乗り継ぎも良く十和田観光電鉄のバスが発車した。
 バスは、広大な三本木原台地を走っている。つまり、南下しているわけだが、三本木原は開拓農地で、大規模な農場が点在することで知られている。新渡戸稲造の指導があったのではなかったか。
 約30分で十和田市の中心に入り、運転士の案内通り官庁街という停留所で下車した。松の並木が続く実に美しい街路で、その名の通り市役所などが並んでいるのだが、これほど美しい通りは全国でも滅多に見られないのではないかと思われた。
 十和田市現代美術館はこの街路の中心あたりに位置していて、白を基調にした独特の外観を持つ建物はあくまでもモダンなのだが、美しい街路にマッチして佇んでいて、街路を含めてすでにモダンアートという雰囲気だった。
 十和田市現代美術館は2008年4月の開館。ちょっと乱暴な説明になるが、あらかじめ恒久的な展示品があって、その展示品を入れる展示室を一つごとにつくっていったという様子で、いくつもの箱がガラスの通路で結ばれていると言える。一見バラバラに見えるこの構成が妙で、大きな建物を一つどかんとつくるということではないので、街路に余計な押しつけがましさがない。それよりも一つひとつの展示室が街路に開け放たれているようだ。西沢立衛の設計で、妹島和世と組んで設計した金沢21世紀美術館にコンセプトが似ているようだった。

f:id:shashosha70:20170924203245j:plain

(写真2 ロン・ミュエク「スタンディング・ウーマン」=美術館で販売されていた絵はがきから引用)
 展示品は魅力的なものが多いのだが、私の目当てはいつでも「スタンディング・ウーマン」。オーストラリアの彫刻家ロン・ミュエクの作品で、高さ4メートルもの巨大な女性像である。これが入館して最初の展示室で迎えてくれるものだから、圧倒されてぎょっとする。そしてやがて体の芯がふるえるような感動が襲っている。とにかく肌や血管、髪の毛に至るまでリアルで、自然な佇まいにほほえましくなる。面白いのは、この女性像は観客を上から見下ろしているわけだが、周囲をぐるり回っても、どこまでも目が追いかけてくることで不思議だ。
 私がこの美術館を初めて訪れたのは開館した年の真冬だった。その時には三沢駅から今は廃線になってしまった十和田観光電鉄で十和田市駅に降り立っていた。乗ったタクシーの運転手が言うには、「こんな田舎に現代美術館なんて誰が見るのだと批判もあった」としながら、その開館するや大変な人気ぶりで市民が一番驚いていると語っていたものだった。
 その後再訪していてこのたびが三度目。開館から9年が経って、美術館はすっかり街になくてはならない存在となっているようだった。
 それよりも、驚いたしうれしかったことは、この日は土曜日だったのだが、美術館を訪れた人たちが、街路を行ったり来たりしながら楽しんでいることだった。美術館の通りを挟んだ反対側には草間弥生の作品など屋外展示もあって、何か街路全体がアートシーンとなっているようだった。これぞまさしく美術館開設のコンセプトそのものと感じられもしたのだった。
 なお、蛇足かもしれないが、「スタンディング・ウーマン」が着ていたワンピースが、やや色褪せてきていて9年の歳月を感じさせた。
横尾忠則十和田ロマン展
 一方、この日は美術館では企画展として「横尾忠則十和田ロマン展」が開催されていた。今回はこの企画展が見たくて十和田を訪れたようなことでもあるが、とにかく、横尾のほとばしるような才能が多彩な作品で展開されていて楽しめた。
 横尾忠則と十和田市現代美術館とのコラボレーションで成立したような企画展で、特にミステリアスな絵画が多かった。
 一つには、横尾の最新シリーズとなっている女性の顔の上にトイレットペーパー(「トイレットペーパーと女」)やキャベツ(「キャベツの女」)をのせた作品群があり、とても深遠なものだった。
 また、私は横尾の作品群の中ではY字路をモチーフにしたものが好きなのだが、この系譜に入る「青〇の魔人」や「TOWADA ROMAN」が面白かった。

f:id:shashosha70:20170924203341j:plain

(写真3 横尾忠則十和田ロマン展の模様。手前左の絵が「トイレットペーパーと女」)