ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

葛登支岬灯台をついに踏破

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(写真1 灯火を灯し始めたばかりの葛登支岬灯台)
函館湾の入口を照らす
 函館で大間からのフェリーを下りてちょっと強行軍だったがその足で葛登支岬へ向かった。函館のフェリーターミナルは幸い五稜郭駅が最寄り駅で、フェリーが遅れたこともあって函館駅まで行っている余裕がなくて一つ手前の五稜郭駅で道南いさりび鉄道木古内行きの列車に飛び乗った。きわどい移動だった。
 葛登支岬灯台(かっとしみさきとうだい)は津軽海峡に面し、この岬と函館山を結ぶ線が函館湾の入口となっている。鉄道でいうと五稜郭と木古内の中間あたりに位置する。
 葛登支岬そのものは大きいわけでも鋭く突き出ているわけでもないが、灯台は函館湾の入口を照らす重要な位置づけを担っている。何しろ、函館湾で唯一の灯台なのである。
 大間からフェリーで津軽海峡を渡ってくると、函館湾に近づくと正面にこの白い灯台がかすかに遠望できていて、この灯台がないと船舶の往来は随分と不便で危険なものとなるように思われた。
 しかし、地味な灯台で、この灯台を紹介する記事はまことに少ない。岬好きで灯台ファンである私にして、地図を広げてその存在はかねて知ってはいたものの、なかなか訪ねてみようとこれまでは思わなかった。

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(写真2 葛登支岬灯台の全景)
 9月3日。かつての江差線である道南いさりび鉄道を渡島当別で下車。一緒に降り立った地元の方々に伺ったところ、夫婦ものは「遠いよ。登り口がわかるかなぁ」と言い、別の老人は「2キロくらいだな」とのこと。
 もとより覚悟のこと、頭に入っている大雑把な地図を頼りに歩き出した。函館湾沿いに国道228号線が走っていて、その丘の上の上段を鉄道が走っている。灯台はこの国道と鉄道の間にあるようだ。地図ではそうなっているが、実際に歩いてみたらこれは理解しにくい。つまり、国道と鉄道はほぼ並行していて、その間に灯台を築こうなど到底無理そうなのだ。
 20分くらい歩いた頃、途中にあった雑貨屋のような食料品店で親父に道順を確認したところ、方向を指さしながらあの岬を回りこんだあたりだという。見ればもう少しだ。
 実はこの時、6キロもあるリュックを背負い、2.5キロものカメラに3キロのカバンを担いでいて、すでにへばりかかっていたところだった。それで、親父に無理を言ってリュックを預かってくれるよう頼むと快い返事。遅くなるかいと尋ねるから燈台の写真をカシャッと一枚撮ってくるだけだと答えたらうなずいていた。この時、すでに夕暮れが近づいていたのである。
 最終的にこれによって救われた。指さしたあの岬がなかなか遠いのである。岬の先には白い建物があって、そのそばに灯台への登り口があるということだったが、なかなかたどり着かない。行き過ぎのたのかとそろそろ不安になってきた頃、ひょいと丘の上を見上げると灯台の頭が見えるではないか。
 結局、灯台への登り口までは渡島当別駅から35分を要した。登り口にはいわれたように白い建物があった。現在は使われていないようだったが、「灯台 列車ペンションききょう」との表示が出ていた。何ともロマンティックな名前だが営業は行っていないようだった。「灯台入口」との函館バスの停留所もあった。もっとも、この停留所を通るバスは日に3本しかなくて利用はしにくいようだった。
 登りはじめると、道筋はそれなりにはっきりしているのだが、草が10数センチも生えていて非常に歩きにくい。最近では人が踏み込んだような痕跡もない。さほど急ではないが、登り坂が途切れない。草むらの中を漕ぐようにして歩いた。
 登り口から歩くこと10数分ほどして灯台がやっと見えた。ついにたどり着いたと思った。随分とあちこちの灯台を訪ね歩いているが、ここ数年来ではもっとも難儀した。しかしそれだけにこれは久しぶりの到達感だった。感激だった。
 灯台は白い円形の灯塔で、背はさほど高くはないががっしりしている。塔高は16メートルとあり、灯火標高は45メートルとあった。なお、座標は灯台の位置で北緯41度44分32秒、東経140度35分58秒である。
 灯台は敷地をぐるっと塀が取り巻いていて近づくこともできない。だから、初点を示すプレートも確認できないし、どこの灯台にも設置してある燈光会の看板も見当たらない。ただ、入口に「葛登支岬灯台」のプレートがまさしく表示されてあった。

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(写真3 灯台から見た函館の町。右側の山裾は函館山)
 しかし、灯台のある崖っぷちからの見晴らしは格別だった。左に函館の町、右には知内であろうか、その先は白神岬のはずだ。前方には本州が横たわっている。
 眼前の函館湾には多数の船舶が往来している。コンテナ船ありタンカーあり、フェリーも見える。函館はやはり大きな港なのである。
 もう少し眺めていたいところだったが、くだんの親父との約束もある。せめて灯火が点灯するまでと欲張っていたが、ちょうど6時なのにその気配がない。もうあたりは薄暗くなっているのに。
 それで歩き始めてそれでも諦めきれずにひょっと振り向くと、何と灯台が灯っているではないか。2度目の感激だった。まだ暗いほどではないから光の筋がくっきりとわかるほどではないがこれはうれしかった。灯台はきっちり6時に灯るということでもないようだ。
 灯火がぐるぐるっと旋回している。調べてわかったが、この灯台はレンズ回転方式で明暗光を発する日本で唯一のものらしい。第三等ではある。灯質は白色である。光度49万カンデラ、光達距離17.5海里とあり、初点は明治18年12月15日とあった。
 そろそろ薄暗くなってきた。親父に迷惑をかけてもいけないと思い帰路を急いだ。国道沿いとはいえほぼ一軒家のような商店であり、店じまいも早いはずである。
 途中からすっかり暗くなってしまった。商店に到着したらすでに明かりが落ちている。それでガラス戸をどんどんとたたいたら、明かりが灯り親父が出てきた。あまりにも遅くて、どうなったのか心配で、もう少ししたら捜索願でも出そうと考えていたところだったと言う。
 それは迷惑をかけてしまった。しかし、お陰様で葛登支岬灯台を見ることができたと感謝の言葉を述べると、親父も喜んでいた。このままでは気持ちがすまないし、お礼の意味をこめてリンゴやらジュースやら買い込んだら、帰りの荷物がさらに重くなった。

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(写真4 帰途、国道から見上げた葛登支岬灯台の上部。灯火が点っている)