ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

奥津軽いまべつ駅を知っていますか

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(写真1 連絡通路上から見た右が北海道新幹線、左下が津軽線津軽二股駅)
青森県にある北海道新幹線の駅
 奥津軽いまべつ駅は、青森県今別町にあるが、れっきとしたJR北海道が運営する北海道新幹線の駅である。
 そもそも、かつてJR北海道に所属する線区に在来線で海峡線というのがあって、津軽今別駅というのがあったが、北海道新幹線の開業に伴って旅客営業が廃止となり、奥津軽いまべつ駅へと変更された。なお、在来線から新幹線へ二つの駅の関係はやや複雑で、奥津軽いまべつ駅は津軽今別駅の単純な名称変更ではないそうである。また、海峡線は、旅客営業は廃止したものの貨物線としては残っている。
 かつて旅客営業を行っていた時代の海峡線津軽今別駅の1日あたりの乗車人員は2011年度から2013年度のまでの3年度間は平均1人となっている。こんな秘境駅みたいなところに新幹線とはいえ奥津軽いまべつ駅を設置したのはいかがなものか、非常なる興味があってこのたびこの駅を利用してみた。

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(写真2 北海道新幹線奥津軽いまべつ駅外観。立派な駅舎だった)
 6月28日。新青森駅を定刻13時31分のところ4分遅れて発車した北海道新幹線はやぶさ13号は、津軽半島を北上しながらわずか14分で13時49分奥津軽いまべつ駅に到着した。海峡目前の本州側最後の駅である。なお、JR東日本が売り出しているJR東日本全線乗り降り自由の企画キップ大人の休日倶楽部パスは、ここは本州ではあるがJR北海道管内であるため利用できない。
 このため私自身も新青森-奥津軽いまべつ間の切符を別途購入し乗車したのだが、下車したのは私のほか男子高校生が1名のみ。聞けば、この生徒は新幹線で通学しているのだという。何でも今別町から通学定期代に対して補助金が出ているそうである。なお、注意して見ていたが乗車した客は一人もいなかった。また、細かいことだが、新幹線の駅だからさすがに無人駅とは行かず、目撃しただけで駅員は3人が勤務していた。下車した旅行者が珍しかったのか、こちらの問いかけに対してとても親切に対応してくれた。
 駅前はバスが発着するロータリーになっているほか、屋根のかかった立派な駐車場があった。レール&ライドを奨励しているということだが、新幹線駅でこの仕組みはおそらく全国でここだけであろう。
 駐車場に隠れて直接は見えないが、少し回り込むとアクスルという名の大きな商業施設があった。また、この施設につながって津軽二股駅があった。こちらはJR東日本の津軽線の駅である。つまり、津軽二股駅と奥津軽いまべつ駅は隣接しているわけである。
 奥津軽いまべつ駅が海峡線の津軽今別駅だったころから、津軽線に乗って三厩を目指していると見上げるような高い盛り土の上に駅のあることは知っていて、龍飛崎の帰りにでも一度乗り換えてみたいものだと思っていたが、連絡が悪くて実現できないでいた。
  それにしても、津軽二股駅と奥津軽いまべつ駅が隣接しているということは、地元の人や鉄道ファン以外では一般の旅行者にはあまり知られていないのではないか。
  どんな利用法があるものか、時刻表をくくってみた。
 東京から龍飛崎へ向かうとして、15時20分に龍飛埼灯台に立っているためには、東京を9時36分発のはやぶさ11号に乗らなければならない。東京-新青森(東北新幹線)-青森(奥羽本線)-三厩(津軽線)-龍飛崎(外ヶ浜町営バス)という常識ルートだが、ところが、新幹線の奥津軽いまべつ駅から津軽二股駅で津軽線に乗り換えるという離れ業を使うと、東京を10時20分発のはやぶさ13号に乗車すれば15時20分には同じように龍飛埼灯台に立っていることができる。
 つまり、例えば10時00分に東京駅にいたとする目撃証言があれば、常識ルートでは15時20分に龍飛埼灯台にいることは不可能ということになり、アリバイが成立する。流行りのトラベルミステリーということだが、どうでしょう、十津川警部殿、このアイディアは使えませんか、「龍飛崎に佇む女」なんていうのもいいね。もっとも、もう使っているかな、私は読んだことはないが。
 ところで、海峡線の津軽今別駅が新幹線の奥津軽いまべつ駅へと変わったとは言え、同じ場所そのままの駅。乗客数に変化はあったのだろうか。
 確定的な統計数字は見つけられなかったが、開業初年度における奥津軽いまべつ駅の乗客数は1日あたり60人程度らしい。津軽今別駅時代には1人だったから、これは画期的とは言える。なお、奥津軽いまべつ駅に停車する列車は、上り下りそれぞれ1日7本である。
 ただ、この60人という数字は、全国の新幹線駅の中で最低ではある。それまでの最低は東北新幹線のいわて沼宮内駅の85人だったから、これを更新したことになる。100人に満たないのはこの2駅だけである。
 もっとも、奥津軽駅についてはこれから認知されていくだろうし、地元も何かと支援策を講じているようである。
 そもそも、JRとしては保安上の必要からここに鉄道施設を設けたものであって、旅客営業上の駅を設けることについては消極的だったようだ。それはそうだろう、立った1人の乗客しかない新幹線駅なんて想像もできない。
 しかし、地元今別町が強く要望して実現したもののようで、こういう背景があって地元の支援策が積極的なものとなっているように思われる。
 奥津軽いまべつ駅が、新幹線駅としては本州最北の駅として、観光と産業の拠点として発展していくことを念願しないでいられない。

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(写真3 奥津軽いまべつ駅に隣接し連絡通路でつながっている津軽線津軽二股駅。これは前面にある商業施設の外観)