ABABA’s ノート

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譽田亜紀子『土偶のリアル』

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土偶の魅力やさしく紹介
 著者は、土偶に魅入られた土偶の研究者であり、土偶の魅力を伝える活動を行っている。
 土偶とは、「およそ一万五〇〇〇年前から二四〇〇年前まで続いたとされる縄文時代に作られた、人形(ひとがた)の土の焼物」と冒頭述べている。
 土偶は発見されたものだけでも全国でおよそ二万点を数えるとし、本書では土偶について発見・発掘から蒐集に至るまで土偶にまつわるエピソードを紹介しながら土偶の概要を解説している。土偶は謎が多いとしながら、土偶の魅力をやさしく記述している。
 本文中には、多数のカラーの写真やイラスト(スソアキコ絵)が添えられ、事例が具体的だし、記述もやさしさを心掛けていてわかりやすい。土偶は謎のことが多いわけだが、時には著者の推論も入っているから却って読み進むに滑らか。しかし、武藤康弘京都女子大教授に監修をしてもらって万全を期しているところは説得力がある。
 それにしても様々な土偶があるものだ。仮面を付けたような仮面土偶、手を組んでいる合掌土偶、腕のストレッチをしているような屈折像土偶、パイロットのメガネのようなものを付けた遮光器土偶などなど。とにかく、縄文人の豊かな創造力には感心させられるものが多い。
 「縄文のビーナス」は、1986年、長野県茅野市棚畑遺跡から発見された。「土偶は妊娠した女性を表していると言われる」ように、この土偶はまさしく身ごもっている。高さが27センチ、重さは2.1キロあり、土偶では大型だとのこと。縄文中期のもので、添付されているカラー写真によると、ほぼ完全な状態で発掘されており、腰回りが豊かでいかにもビーナスと呼ばれるのにふさわしい。出土の状況なども紹介されているからとても興味深い。
 国宝に指定されているが、国宝となっている土偶は現在5体。この「縄文のビーナス」は最初に国宝となった土偶だとのこと。
 実は、私は「縄文のビーナス」を含め5体の国宝土偶をかつて東京国立博物館で公開された折に見たことがあって、本書のタイトル通り土偶のリアルさに感嘆していたことがあった。
 なお、本書では自明のこととして言及していないが、土偶と埴輪はまったく別のもので、埴輪は縄文時代から弥生時代を経てさらに下った古墳時代のもので、土の焼き物を指す。これは蛇足であろうが、読んでいて自分で気になったので念のため。(山川出版社刊)