ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

広島を縦横に走る広電

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(写真1 広島港(宇品)停留所。3系統が発着するターミナルである)
日本最大の路面電車網
 このたびの旅では、広島に2泊した。広島はたびたび訪れていて、今さら見ておきたいところもないが、これまでの旅なら1泊に詰め込んで駆け足で巡るところを、旅程をゆっくり取ってのんびり歩きまわった。
 それでも、どうしても乗りたかった可部線はともかく、錦川鉄道、アストラムライン、スカイレールなどとやっぱり鉄道を乗りまくることにはなったが、それも初めての路線はもはやなく、二度目三度目ともなれば変化を楽しむほうが目的に近い。
 それで、広島の市街中心はどうなっているのか見たくて広島電鉄(通称広電)に乗ってすみずみまで訪ねてみた。
 広電は、日本最大の路面電車網を有する鉄道会社。軌道線の市内電車では、9つもの運行系統(線区上は6路線)があり、総延長は19.0キロに達する。ほかに、市内線からそのまま鉄道線に直通する宮島線があり、合計した総営業距離は35.1キロに達し、日本一である。また、年間5千万人ともいわれる輸送人員も路面電車として日本最大となっている。
 私はこのたびこの広電の全路線を余すところなく乗ってみたが、それでわかったことは、まず一つには、路面電車が街の風景にすっかり溶け込んで市民に支持されとても賑わっているということ。全国にはモータリーゼーションの変化から路面電車を廃止しあるいは大幅に縮小した都市が多い中で、広島は路面電車網を守っていて、今やこれが広島の大きな財産となっているのである。
 二つには、実に多種多様な車両が走っていて乗っていても見ていても楽しいこと。いわゆる昔からの電車がガタコトと走っているほか、5連接という長い編成の新型車両もある。あまりに長くてホームからはずれる停留所があったほど。古いものでは、車体の銘板に「大阪市電 昭和44年広電移籍」などと表示された電車まであった。
 三つには、観光客や外国人も気軽に乗り降りしていること。どこに運ばれるか不安なバスとは違って、運行ルートがはっきりしわかりやすいから気軽に利用できるのだろう。
  いくつかの系統に乗ってみよう。まず1号線。広島駅から発着しているが、広島の路面電車の大半がここ広島駅発着である。広島港(宇品)に向かう路線で、初め本線を通って紙屋町東で左折、ここからが通称宇品線で、広電本社前などを通って広島港(宇品)へと至る。停留所はちょっとしたターミナルとなっていて、松山などへ向かうフェリーーミナルともなっている。
 宇品といえば、かつて軍港として兵員輸送の窓口であり、兵站の最前線として重要な位置を担っていた。また、この宇品港に向けてかつて国鉄宇品線もあった。現在の広電比治山線・宇品線と並行する路線だった。現在の広電終着の停留所から見る限り、当時の遺構は一切残っていなかった。

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(写真2 広電の江波車庫。2系統が発着している)
 次ぎに8号線。JR駅の横川から江波に向かう系統で、通称横川線と江波線が連続している路線。太田川と天満川に挟まれた砂州の真ん中を走っている路線で、終点江波には広電の車庫もあった。この先には三菱重工広島製作所の工場があるはず。隣接してかつての広島空港があって、かつてこの空港で降りたことがあるのだが、スリーダイヤが眼前に迫ってきてまるで三菱の工場にランディングするような様子だった。
 また、途中には舟入本町という停留所があったが、ここにはかつて当社産報出版の広島支局があって、目をこらしてみたもののもはや気がつかないほどに変化していた。
 とにかく路面電車は楽しい。街の中を走っているのだから当然だが、断然、街と近い。それは風景が近いということばかりではなく、人々とも近い。方言が聞こえてくる。広島という街の空気が肌で感じられた。

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(写真3 9号線通称白島線の終点白島の電停。信号待ちで乗客がホームから溢れている。路面電車らしい風景)