ABABA’s ノート

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ミュシャ展

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(写真1 巨大な作品が並ぶ展示会場。大変な賑わい)
壮大なスラブ叙事詩
 ミュシャの絵はパリやウィーンなどでたびたび見ているし、このたびの展覧会には初め出かけるつもりはなかった。
 そうしたら、知人から見たかと問われ、行くつもりはないと答えたら、是非見ておいたほうがよいと強く薦められた。その知人も、当初はその気がなかったらしいが、やはりすでに見た人から強く促されて見たのだという。
 なるほど、これまで見て知っていたミュシャの絵とはまったく違う。
 ミュシャ(1860-1939)は、チェコの人。私がこれまで知っていたミュシャといえば、 アール・ヌーヴォーの代表的画家としてパリで活躍していた時代のポスターや装飾パネルといった作品。艶やかで官能的に女性を繊細に描いていて、その華やかで退嬰的にも見える画風は一目でミュシャとわかるものが多かった。
 それが「スラヴ叙事詩」は、これがあのミュシャの絵かと思われるほどに画然としていた。
 とにかく大きい。大きいものなら610☓810センチ、小さいものでも405☓480センチもある。これが全部で20枚。会場が国立新美術館でなければ一堂に展示できなかったのではないと思われたほど。テンペラと油彩でキャンバスに描かれているが、これはもう壁画といってよい大きさだ。普段はプラハ国立美術館に展示されていて、国外で展示されたのはこれが初めてということで、貴重な機会だった。
 壮大なスケールで描かれた、まさしく一大叙事詩である。ミュシャがチェコに帰ってチェコ及びスラヴ民族について描いたものということだ。パリにいてこそ、なおチェコへの憧憬が強かったものであろうか。
 順に見ていったが、1枚目は「原故郷のスラヴ民族」(1912)とあり、異民族からの襲撃が描かれている。この後も異民族、異宗教との闘いなどの場面が多い。おそらくチェコの人々であれば誰しも知るエピソードであろうが、チェコの歴史及びスラブの民族について多少なりとも知識がないと理解はしにくい。
 20点目は「スラヴ民族の賛歌」(1926)とあり、 壮大なスラヴ叙事詩最後の作品である。ここにおいてスラヴ民族の独立を祝う内容になっていた。
 一通り見て、何の脈絡もないが、ドヴォルザークの交響曲第九番「新世界より」を想い起こしていた。どうも、チェコの人というのは、ふるさとに対する思いが強いようである。

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(写真2 スラヴ叙事詩20点目の作品「スラヴ民族の賛歌」)