ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

講演『脆性破壊研究の最近の動向』

f:id:shashosha70:20170510234127j:plain

(写真1 特別講演会の模様)
溶接接合工学振興会
 『脆性破壊研究の最近の動向』と題する特別講演会が昨日10日、大崎のホテルで行われた。公益財団法人溶接接合工学振興会の主催で、講演したのは粟飯原周二東京大学大学院教授(日本溶接協会会長)。
 脆性破壊とは、延性などを伴わずに突発的に発生する破壊のことで、鉄鋼の脆性破壊においては溶接との関わりも深く、構造物の安全確保に対し極めて重大な要素となる力学的現象。
 粟飯原教授はこの脆性破壊研究の我が国における第一人者で、この日の講演では、脆性破壊の特徴から脆性破壊事故例、破壊力学研究の変遷など脆性破壊全般について最近の動向を交え講演したが、豊富な研究に斬新な知見を示して極めて印象深い内容となっていた。
 内容は専門的でなかなか難しいのだが、一つ二つ興味深かったことを紹介してみよう。
 まず、イントロダクションとして脆性破壊の特徴について述べ、低応力・低変形状態で不安定的に起きること、毎秒500メートルという高速で伝播すること、鋼では多くの場合へき開破壊となることを示していた。
 また、脆性破壊が世界的に注視されたのは米国における戦時標準船の損傷だが、ここでは溶接欠陥を起点とした脆性破壊が要因となっていて、溶接構造がために鋼板不連続によるき裂の停止(アレスト)ができなくなったと解説していた。
 つまり、溶接欠陥の防止など溶接に対する要求はますます重要になっているわけだが、しかし、近年では、アレスト(脆性き裂伝播停止)性を向上させた高アレスト鋼板が日本で開発されるようになり、造船などで採用されていると紹介していた。
 また、粟飯原教授は、これまでに蓄積されてきた溶接構造物の破壊防止に関する膨大な知識とデータを継承・発展させる必要があるとし、我が国における材料・溶接・破壊の要素技術と研究は世界のトップにあり、これらを統合して世界標準へと反映させるべきだと指摘して講演を結んでいた。