ABABA’s ノート

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加藤庸二『東京湾諸島』

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増殖する人工島群
 東京湾に諸島というほどに島があったっけ?とも思うが、加藤自身も当初はそうだったらしい。
 それが、ある日、小笠原から船で帰ってきた際、東京湾に入るや、小さな島影が二つ見えた。これは人工島だったのだが、「これはまぎれもなく島だな」そう思ったということである。そしてそれまで「これらを一度として島と認識していなかった」のだという。
 以来、加藤は東京湾にある人工島を調べ尽くして歩くのだが、これより先、加藤は日本の有人島全島踏破を果たしている。
 加藤によれば、日本の島の総数は約6800。このうち430島に人が住んでいるということである。
 その加藤ですら、人工島に思いが至らなかったということだが、実際、これらが島として紹介されているものはどこにも見あたらなく、東京湾にははたしていくつ人工島があるのだろうと興味が湧いてきたということである。
 結論から言えば、東京湾には埋め立て造成された人工島は70余島あるということである。
 この中には、新木場や霊岸島、越中島、石川島、佃、月島などとあって、これらは古い歴史もあるから今となっては人工島とは気がつかないような島々も含まれている。
 本書はこれら東京湾の人工島について、そのすべてを地図で示し、多角的にとらえている。
 江戸に幕府が建てられ、江戸前の海が次々と埋め立てられていった歴史、江戸末期、国防上から築かれた海堡や台場、そして現代に至る埋め立て造成の歴史までが細かく記されている。それはまた人工島の作り方にまで及んでいるといった詳述ぶりである。
 特に工業化は工場地帯を人工島に設けることで発展してきたわけだが、興味深いのは、同じ東京湾にあっても、東京側では島をつくり橋を架けて広がっていったのに対し、千葉側では沿岸部の埋め立ては「島型」ではなく、本土から陸続きで突き出た「半島型」だと指摘していること。
 なるほどその通りだが、島型では火災や事故などから隔てて管理できるという利点があり、対して半島型となったのは千葉側には背後の土地に余裕があり市街地が迫っていなかったということから管理の事情が異なっていたと述べている。
 とにかく読んで自分でもびっくりしたことは、人工島のことを書いた本がこれほど面白かったということ。離島などと違って、ロマンも旅情もないものだろうと思っていたのだが、そこには歴史もあり、必然性もあったということで、現代を読み取る視座があって感心させられた。
(駒草出版刊)