ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

住宅街の車掌車

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(写真1 住宅街の庭先に鎮座している緩急車)
シリーズ車掌車を訪ねて
 大田区東雪谷三丁目所在。
 緩急車である。緩急車とは、貨物も積めるようになっている車掌車のこと。ともに事業用貨車で、車掌室と貨物室で構成され、ブレーキが付いている。なお、ブレーキが付いていないものは車掌車とは呼ばない。
 東急池上線の洗足池駅からバスで10分ほど。閑静な住宅街の中に佇むようにあった。個人所有だが、私はこの近所に住む友人からの情報でその存在を知った。大変貴重なことで、私が車掌車に執心していることを知ってのこと。
 個人の住居の庭先だということで、現地を訪れるまでは現物を目の当たりにできるものか心配もしていたが、幸い、生け垣が低く、公道から観察できるようになっていた。

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(写真2 車体に表示してあった緩急車を示すワフ29603の車両番号)
 なるほど緩急車である。後尾を道に向けて置いてあった。線路は敷いてある。デッキにブレーキ。これは車掌車の要件。右の側面には窓が二つと貨物室の扉。
 左に回り込むと、型式ワフ29500の表示。下部には四角い枠の中に59-2 57-8 新小岩車区の文字が3段に表示してある。
 調べてみたら、この形式は、有蓋貨車に緩急車の設備を追加したもので、昭和30年代に650両も製造されたということである。貨物量の少ないローカル線においては、車掌車と有蓋貨車を兼ねられる有蓋緩急車は重宝されたらしい。
 車体に普通なら取り付けてある銘板が見当たらなくて製造年、製造所が判然としないが、左側の車体中央にワフ29603と車両番号が記してあった。また、換算1.4とあり、ほかには、千シワ、荷重5t、自重10.4tとも。
 なお、面白かったのは車体左側の窓の数が3つあったこと。右側が2つだから、この違いはワフ29500独特のものかも知れない。
 私は、鉄道は乗って旅をすることが好きな鉄道ファンなのだが、同じように、車掌車についても乗ってふらふらすることを夢見る車掌車好きのこと、車両に関する知識は残念ながら少ないのだが、その乏しい知識から類推すると、千シワとは、車両の配備場所が千葉貨物駅であることを示していると読んでいいものであろう。さらに、枠内3段の印は検収を示すもので、かつての新小岩車両区を示していると読めるものであろう。
 それにしても、こちらのお宅は今は亡き著名人だが、車掌車にどのような関心があったものであろうか。これほど大きなものを自宅に持ち込んだことはよほどの動機であろう。ご子息も有名人で、もしお目にかかる機会があればいきさつを伺ってみたいものだ。
 庭に入って車掌車の内部をのぞいてみたかったが、膝の高さほどの簡単な柵がある程度とはいえ無断で入るのは不法侵入だし、かといって、ベルを鳴らして許可をもらおうと、こんな児戯に類することで平穏を破るのもはばかられて遠慮した。
 もし、この車掌車を持ち込んだのが書斎にでもするという目的があったのだとすると、これは断然同意できるわけで、これほど羨ましいことはない。もちろん、貨物列車の最後尾に連結してもらって、全国津々浦々をふらふらと旅することができないとしてもだ。

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(写真3 後尾からみた車両)