(写真1 映画館に掲示されていたポスターから引用)
ユダヤ人のアイデンティティ
宣伝惹句に〝クラシック楽曲と世界を巡る極上の音楽ミステリー〟とある。
しかし、『パリに見出されたピアニスト』や『レディマエストロ』などの映画のように、美しい音楽に乗って若き音楽家の成功譚が綴られるのかと期待すると肩透かしを食う。内容は、ユダヤ人のアイデンティティを追求した物語だ。
1951年のロンドン。天才ヴァイオリニストの初舞台の日、ドヴィドルは忽然と姿を消す。理由も告げずに。
これより前、戦時下のロンドン。ユダヤ人の少年ドヴィドルが音楽一家の家にワルシャワからやってくる。初め息子マーティンは相部屋になったりすることを嫌っていたが、音楽を通じて次第に仲良くなっていく。マーティンがピアノを弾き、ドヴィドルがヴァイオリンを弾く日々が続く。父親はドヴィドルの才能に気づき、ガリアーノのヴァイオリンを与える。
映画は、物語が行ったり来たりして進むので注意深く見ていく必要がある。
そして、成長したドヴィドルがいよいよ初舞台という日。すでに天才としての誉は高まっていたのだったが、ドヴィドルは開幕の時間になっても戻ってこなかった。何があったのか。プロモーターの父親はチケットの返金などで多額の損害を被る。
35年後。音楽家の道を進んでいたマーティンが、あるコンクールでドヴィドルとまったく同じ癖のある仕草をする青年を見てドヴィドルのことを思い出す。
ここからマーティンがドヴィドルを捜す旅が始まる。ロンドン、ワルシャワ、ニューヨーク。
手がかりは皆無に等しかったのだが、やがてニューヨークに至ってマーティンはドヴィドルがガリアーノのヴァイオリンを持っていたことを思い出す。
ガリアーノのヴァイオリンとは、ストラディヴァリウスなどと並んで18世紀イタリア製の名器として知られる。現在なら数千万円はするのではないか。
マーティンは、このガリアーノを手がかりにやがてドヴィドルを探し出す。
フィナーレが良かった。ロンドンにやって来たドヴィドルは、35年前に果たせなかった約束の演奏を行う。演目は35年前と同じ。名演奏に、聴衆はスタンディングオベーションで答えた。
監督フランソワ・ジラール。劇中のヴァイオリン演奏はレイ・チェン。