ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

宇佐美りん『推し、燃ゆ』

f:id:shashosha70:20210302151632j:plain

(写真1 受賞作所収の「文藝春秋」3月号)

芥川賞受賞作

 書き出しが「推しが燃えた。」だし、書名からして『推し、燃ゆ』とあって、いきなり躓いた。推しの意味がわからない。一押し二押しの推しか。
 私は、小説を読むときに、初めの20ページ、少なくとも10ページは我慢してでも読むようにしているが、本作はページをくくる手の止まることが多かった。
 保健室で病院への受診を勧められて、「何度も予約をばっくれるうちに」などとあると、意味不明で読むに滑らかさの欠けることおびただしい。
 しかし、小説は時代によって変わっていくもの。新しい時代には新しい文章が出てくる。それはそれでいいし、そうでなくてはいい小説とはならない。著者はまだ大学生。新しい時代を表現しているのだろう。
 私は、文藝評論家でもなし、書評のブログを書いているわけでもなく、途中で放り出しても良かったのだが、芥川賞ということでもう少し我慢して読んでみた。そうすると、この作家は、内容はとても理解するに苦労するようなものなのだが、文章はうまいし、筋の運びもいい。逆に、新人にしてはまとまりすぎてはいないかと心配になるほどだ。
 私は芥川賞だけは欠かさず読んできていて、もうかれこれ50年にはなる。これが芥川賞かといいたくなる受賞作もあったが、それよりも気なるのは、受賞作に伸びしろがあるか、作家としての将来性があるかどうかということ。
 50年ということは、100の受賞作ということになるが、この中で、2作目3作目も読んだという作家は意外にも少ない。半数に満たないではないか。私は小説が好きでまずまず読んでいる方だと思うが、それでもこんなものだ。
 それにして選考委員も大変だ。委員の顔ぶれを見ると、平均年齢は60歳ほどか。それが二十歳そこそこの作品を読まなければならいのだから。しかも、候補作5作中4作は少女が主人公だったらしい。
 候補作は、文藝春秋の編集部員が選び出しているらしい。文藝春秋の編集部員ほどならば、一流の目利きなのであろうが、候補作は一流の文芸誌の掲載作品ばかり。意外性がなくて、面白味には欠ける。
(「文藝春秋」3月号所収)