ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

不動まゆう『愛しの灯台100』

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ほとばしる灯台への愛情

 不動さんは、フリーペーパー『灯台どうだい?』の編集長。自費発行で無料配布している。テレビやラジオへの出演や新聞、雑誌への執筆でも知られ、灯台フォーラムの運営にも携わっており、その多くは灯台ファンを増やそうというもので、ユーザー・オリエンテッドな活動は広範な支持を得ている。
 言わば灯台ファン第一人者の灯台本ということになるが、その内容は、日頃の活動と同じように、灯台ファン初心者のための格好のオリエンテーションとなっている。
 とにかく灯台への愛情がほとばしるようで、記述はやさしく、美しい写真が添えられているし、灯台の魅力が熱っぽく語られている。
 全国100の灯台が紹介されていて、一つに1ページから2ページの分量で、ページをめくるのが容易。それぞれの灯台について机上では得られない情報が盛り込まれていて、塔高、灯質、灯器といった灯台の基本情報から、のぼれる灯台か、重文や文化財に指定された灯台であるかなどとアイコンで示されているのも親切。簡単なアクセスも紹介されている。
 一つ引いてみよう。剱埼灯台(つるぎさきとうだい)。航路標識番号2018、所在地:神奈川県三浦市南下浦町松輪47、アクセス:バス停「剱崎」徒歩20分、初点灯:明治4年1月11日(旧暦)、1871年3月1日(西暦)とあり、有料P(徒歩5分)と親切。さらに、塔高:17メートル、灯質:AlFl(2+1)WG30S、灯器:第2等3面閃光レンズと基本情報が記されている。
 本文では、〝レンズファンに絶大な人気を誇る〟と見出しがあり、「理由は、塔が低く、下から見上げた時にレンズを鑑賞しやすいから。そしてレンズの表情も豊かだ。白い光を2回点滅させるために、小振りなレンズが2面並んでいる側と、緑の光を1回点滅させる大きな1面の側がある。」などと解説している。ちょっとマニアックだが、これはレンズフェチ向けかもしれない。
 ユーザー・オリエンテッドということでは、本文中に挟まれているコラムが貴重。灯台各部の名称と用語、フレネルレンズと光などとあって参考になろう。
 とにかく豊富な情報をコンパクトに抜き出してやさしく初歩向けに書かれているところがいい。この本を手にしたら、美しい写真に魅入られるだろうし、自分も灯台を訪ねてみたいと思うに違いない。ただし、本書は灯台紀行ではないので念のため。
 掲載されている100の灯台は、著者の好みによるものだろう。また、紙幅には限りがあっただろうから、随分とはずしたところもあったに違いない。著者はフットワークがいいらしく、船で渡るしかないような孤島の灯台もたくさん取りあげている。これは素晴らしい。こういうところには、仲間を募って釣り船をチャーターして向かえばいいと手法を紹介している。
 実は私も灯台ファンの端くれ。随分と日本中の灯台を踏破してきた。大部分は本書に重なるが、なぜにここの灯台が選ばれなかったのだろうと思われるところがあった。もちろん、著者の選定でいいわけだし、すべてを網羅することは不可能なわけだが、それにしても、例えば、九州最南端佐多岬灯台や人気の高い足摺岬灯台が入っていなかった。いずれも素晴らしい岬に素晴らしい灯台だからちょっと解せなかった。また、灯台そのものの魅力には欠けるが日本最南端ということで波照間島灯台がはずれていた。
(書肆侃侃房刊)