(写真1 大井川に沿って峡谷を縫うように走る井川線)
ああ!大井川鐵道の旅②
千頭で大井川本線から井川線に乗り継いだ。駅構内で本線と井川線のあいだには簡単な中間改札があり、念のため検温された。コロナ対策がしっかりしている。
(写真2 千頭駅で発車を待つ井川線列車)
井川線は南アルプスあぷとラインの愛称があり、千頭からさらに北上をつづけ南アルプスの山中に至る山岳路線である。そもそもはダム建設の資材運搬のために敷設された路線であり、勾配がきつく曲線も多いところから軽便鉄道のような小さな車両が使われている。編成は、先頭から制御客車+客車+客車+客車+DD20形機関車となっている。ただし、ゲージ(軌間)は1067ミリで、これは普通鉄道から貨車をそのまま乗り入れられるようにしたため。当初は762ミリだったようで、このためトンネルなどの鉄道施設はそのままに車両限界は小型車両のものだから普通車両は乗り入れできない。
千頭を出るとすぐに右に車両基地。やがて大井川を右眼下に見ながら渓谷の中をゆっくり登っていく。速度は20キロ程度か。急カーブが多いから線路がぎりぎりときしむ。
(写真3 たびたび見かけた大井川に架かる吊り橋)
川根両国を出ると吊り橋が見えた。車掌がアナウンスしてくれる案内によると現役の吊り橋だとのこと。この先も、たびたび吊り橋を見かけた。
(写真4 橋とトンネルが多い。全長の3分の1にもなるらしい。これはアプト式電気機関車に後押しされて日本で唯一のアプト式鉄橋を渡る列車)
とにかく橋とトンネルが多い。橋梁が55カ所、トンネルも61カ所もあるといい、全線の3分の1もが橋とトンネルだということである。もっとも、いずれも短いものばかりだが。
(写真5 アプトいちしろ駅で連結されたアプト式電気機関車)
やがてアプトいちしろ。ここから次の長島ダムまでの2キロがアプト式鉄道の区間。最後尾にアプト式電気機関車ED90形が連結された。車両限界ぎりぎりに一段と大きい。大変頼もしく感じられる。この間が電化区間なのである。何しろ、この間の最急勾配は90‰というからすごい。信越本線の碓氷峠越えで廃止されてから日本で唯一のアプト式鉄道となった。
(写真6 アプト式鉄道のラックレール)
ホームでは連結作業を見ようと観光客が群がっている。線路には歯車の形をしたアプト式独特のラックレールの構造が見て取れた。
(写真7 上り下り列車の交換が行われた長島ダム駅。アプト式電気機関車はここで付け替えられた)
いよいよ発車すると、トンネルをくぐり橋を渡って大きなダムが見えてくると長島ダム到着。きつい登坂区間のはずだがそれらしい感覚はなかった。アプト式区間はわずか一駅だけでここまで。ここでアプト式機関車が切り離され、対抗する千頭行き列車が入ってきた。アプト式機関車はこの千頭行きに付け替えられた。下り坂だがやはりアプト式機関車が必要なのだ。
(写真8 対岸のビューポイントから俯瞰した奥大井湖上駅全景。まさに絶景)
長島ダムを出るとそうこうして奥大井湖上駅。井川線のハイライトである。乗客の大半が下車した。私もここで途中下車した。面白いロケーションになっており、U字型に蛇行する大井川に対し、U字形の底の部分にあたる突き出た突端に駅が設けられていて、両側が橋で渡れるようになっている。
この全体像が対岸の丘の上から展望できるというので、観光客は橋を渡り階段を上りビューポイントに向かった。階段は10本もあり、段数も合計すると100段は超すであろうか、20分も要し実にきつい。
(写真9 レインボーブリッジを渡る列車)
しかし、頑張ったかいがあった。実に眺望がいい。絶景ポイントである。なるほど、湖上に浮かんでいるようだ。湖上に渡された橋はレインボーブリッジというらしい。長さは474メートル、湖面からの高さは約70メートル。
(写真10 眼下に見え隠れする大井川)
駅に戻ると、乗客の大半は千頭へと折り返していったが、私はそのまま井川線を乗り続けた。眼下に緑色の大井川が見える。
やがて大きなダムが見えたら終点井川だった。2面のホームがあり、小さな駅舎。降り立った客はわずかに2人。通しで乗ってくれば千頭から1時間41分のところ、峡谷を縫うように走り、鉄道の旅が満喫できる美しくも楽しい路線だった。(2020年10月6日取材)
(写真11 井川駅)