ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

江の川と三江線


シリーズ 川は鉄路の友だち

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(写真1 いつまでも左窓に江の川が続く)

どこまでも左岸に鉄路

 鉄道は川沿いに走っている場合が多い。ただ、川は鉄道にはお構いなしに自然の地形に沿って流れているから、川に沿えなくなると線路はトンネルで抜け、橋で渡る。
 しかし、三江線はどこまでも律儀に江の川から離れず走っている。江の川は大きく蛇行しながら流れている川だから、三江線もまた蛇行している。このため、江津から三次まで100キロを超す路線ながら、直線に引き直せば60キロで済んでいるらしい。川は鉄路の友だちとはいいながら、これほど仲のいい路線も珍しい。
 江の川は、広島県の阿佐山に発し、中国山地を貫きながら三次を経て島根県の江津で日本海に注いでいる。長さが194キロもあり中国地方最大の河川である。
 一方、三江線は、江津と広島県の三次を結んでいた鉄道路線だった。全長108.1キロ、駅数は35。2018年4月1日付で廃止された。一般に鉄道は端っこだけ廃線になる場合が多いから100キロを超す路線の全線一括廃止はさすがに珍しい。ただ、輸送密度は運行中の全国のJR路線で最下位だった。
 三江線にはこれまでに二度乗ったことがあって、二度目には初めて乗ってからちょうど20年が経っていたが、車窓に変化が少なく二度の印象がほとんど変わっていなかったことに少々驚いた。また、このたびノートをひっくり返してみたところ、撮った写真の位置まで同じだった。
 江津は、山陰本線の鳥取-下関のちょうど中間に位置し、三次と結ぶ三江線の起点。山陰と山陽を結ぶ陰陽連絡線の一つである。

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(写真2 江津3番線で発車を待つ三次行き列車)

 当時のノートをひもといてみると、真冬に乗った際には、あたりはまだ真っ暗なホーム。3番線。1両のワンマンディーゼル。乗り込むと車内は暖かくなっていた。凍てつくような寒さではないがこれはありがたい。乗客は女子高生と二人。
 江津を出るとすぐに江の川の手前で右に大きくカーブした。この先、三江線はずうっと江の川と一緒に走って行く。
 三江線は不便な路線で、三次まで乗り継いでいける列車は日に3本しかないし、中間の浜原まででも5本しかない。
 6時00分発のこの列車の次の江津発は12時34分までない。それも浜原止まり。それで不思議に思うことは、高校生などどうやって通学列車として利用しているのかということ。
 1本乗り遅れてしまったら次はしばらくないわけだが、それでも、6時30分川戸で高校生が二人乗ってきたし、6時48分の石見川越で女子高生が二人乗ってきた。この時点で乗客は私のほか高校生五人。
 6時53分、夜が白々と明けてきた。曇っている。江の川が左窓に見える。つまり、列車は江の川の左岸を走っているわけだが、そう言えば、列車は江津を出てからまだ一度も江の川を渡っていない。
 大河なのだが、川は緩く蛇行していて線路もカーブが多く、列車のスピードは上がらない。対岸を車が猛スピードで通り過ぎていく。
 7時09分石見川本で高校生が全員下車した。江津行きの列車と交換となった。夜が明けた。
 「がんばろう三江線」という標語があり、三江線活性化協議会などという表示もあった。このときすでに三江線の廃線が俎上に上っていたのであろう。
 一般に、線路は山間部でも平地を選んで敷設されているのが一般で、川と並行している場合が少なくない。一緒に並べなくなると、線路は橋で対岸に渡ったりトンネルで逃げる。車窓風景に川が多いのもこのためで、それも右に左にと位置関係を変える。
 ところがこの三江線は、どこまで行っても江の川は左にばかり見えている。これは希有な例であろう。川の流れに任せて線路が敷かれているからであろう。町も川岸にできているからなおさらそうなっているものであろう。
 7時35分、明塚を過ぎたあたりでついに江の川を渡った。つまり、発車してから1時間半も列車は左岸ばかりを走ってきたことになる。この先では、江の川は左窓に右窓にと動いた。

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(写真3 はるか眼下に集落が見える宇都井駅。ホームまで116段もの階段を登らなくてはならない)

 8時04分石見松原で初めて私以外に一般人が乗ってきた。宇都井8時19分。遙か眼下に集落が見える。ホームは谷を渡る橋に設けられており、「日本一高いところにホームがある駅」なそうである。つまり、地上からということだが、その地上からホームまでの階段の段数は実に116段にも達する。エレベータもエスカレータもないようだから、なかなか大変だ。

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(写真4 三次到着の直前に渡った江の川。100キロも遡ってなお大河である)

 そうこうして江の川を長い鉄橋で渡って9時21分三次到着。江の川はここまで遡ってもまだ川幅が広い。3時間を超す路線。100キロでこれはいかにも緩慢。
 三次は、広島県北部の中心都市で、三次盆地が広がっている。三次駅は三江線の起点であるほか、芸備線の中間駅である。また、福塩線も府中以北の運行ではすべて三次発着となっている。山間のこの都市にあろうことか私はこれまでに二度も泊まったことがある。鉄道の要衝なのである。しかし、三江線がなくなってはその必要も薄いものとなるだろう。

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(写真5 三江線の終着駅だった三次。芸備線との接続駅である。このときには工事中だったから現在は新しい駅舎になっているのかもしれない)