ABABA’s ノート

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『岩波新書解説総目録』刊行

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創刊80年約3400点

 岩波新書の1938年の創刊から2019年までの80年分のラインナップ約3400点が総覧できる。判型はもちろん岩波新書と同じサイズながら約700ページもあって、歴史の重みをずしりと感じる。
 初めての解説総目録なそうで、刊行順に配列されていて簡単な解説文が施されている。また、巻末には書名索引と著訳編者名索引がついており、資料価値も高いように思われる。
 この頃では数多くの出版社から新書が刊行されているが、岩波はその嚆矢となった。当時、すでに岩波文庫は発行されていたが、どうして新書を発行しようとしたものか。本書に収録されている岩波茂雄による「岩波新書を刊行するに際して」によれば、古典的知識を念頭とした岩波文庫に対して、岩波新書は現代的教養を目的としたと位置づけている。
 ともあれ我々は、文庫、新書、単行本などと多様な形態の書物によって読書の楽しみと広範な知識と教養を得ることができており、大変ありがたい読書環境にある。
 岩波新書は随分と数多く読んできた。新書はタイムリーな企画が勝負だから各新書ともにしのぎを削っており、岩波に限らず内容次第だが、私が手に取る新書のうち岩波は3割くらいに上るから少なくはない。
 岩波新書で私にとって一番思い出深いのは岩崎昶『映画の理論』だ。もう50年数年前にもなるか、高校時代に手に取ったのだが、むさぼるようにして読んだし、当時、映画青年だった私にとってはバイブルのような本だった。このたび取り出してみたところ、これほど書き込みの多い本もなかったと気がついた。定価は130円だった。
 岩波新書としてユニークなのは巴金の『憩園』だろう。小説は文庫に回すことが一般的な岩波としては、翻訳とはいえ新書に収められたのは珍しい。しかも、わざわざ書名の上に小説と小さい文字で断っているところなど面白い。岩波自身異例のことと認識していたのであろうか。私の手元にあるのは昭和28年8月20日発行の第1刷で、私は古書店で手に入れた。
 しかし、このたび本書岩波新書解説総目録が出たことによって調べてみたところ、本書に前後して趙樹理『結婚登記』と老舎『東海巴山集』がやはり岩波新書として刊行されており、中国の人気作家の小説が立て続けに出版されているのが注目される。
 私の手元になかったのでこれまで気がつかなかったが、こういうこともあるから総目録はありがたい。
 ちなみに、岩波文庫総目録で調べてみたところ、この新書3冊が発行された昭和28年当時、中国の小説は1冊も岩波文庫からは刊行されていない。おそらく、現代文学ということで新書に回されたものであろう。
(岩波新書)