ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

いわきの塩屋埼灯台

シリーズ 灯台慕情

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(写真1 南側の豊間漁港から見た塩屋埼灯台=2017年3月9日)

演歌が流れる岬

 塩屋崎に半島はない。せいぜい、ちょっと出っ張った腹に出べそがちょこんと出ているという風である。しかし、この出べその格好が良くて、塩屋埼灯台は絶景となっている。大変人気のある灯台で、観光バスがひっきりなしに横付けされている。房総半島より北の太平洋岸なら犬吠埼灯台に次ぐのではないか、
 また、塩屋埼灯台の人気は、ここを舞台に歌われた美空ひばりの名曲『みだれ髪』が預かって大きいのではないか。岬の付け根にある土産物屋が大音量で曲を流している。いかがなものかと思わないでもないが、いつしか自分も口ずさんでいるからいい加減なものである。

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(写真2 路線バスの停留所。遠く灯台の上部が顔をのぞかせている=2018年6月14日)

 塩屋崎には、常磐線いわき駅から常磐交通の路線バスが出ている。小名浜漁港などを経て泉駅まで岬をぐるっと回る路線で、塩屋埼灯台はその中間あたり。いわきからなら約30分。灯台入口というバス停で降りると、遠く岬上に灯台が顔をのぞかせている。

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(写真3 灯台から見下ろしたかつての薄磯の集落が左に見えている=1989年12月16日)

 かつては薄磯(うすいそ)という集落が灯台との間にあって、バス停からは灯台は直接望めなかった。それが、東日本大震災の津波被害によって、集落がごっそり津波でさらわれてしまったため見晴らしが良くなってしまった。現在は、立派な防潮堤が築かれ、宅地整理も終わっているが住民は戻ってきていないようだ。通りで会ったご夫婦と話したら、自分たちも高台へ引っ越ししたし、平地は分譲しているが買い手がつかないということだった。もうあれから2年になるが、集落に住民は戻っていているものかどうか。

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(写真4 津波で壊滅した薄磯の集落。立派な岩壁が張り巡らされているが住民は戻るのだろうか=2018年6月14日)

 きつい階段を登ると塩屋埼灯台である。白堊の堂々たる灯台で、実に美しい塔形をしている。塔高が24メートル、灯火標高は73メートルとある。つまり、灯台は約50メートルの断崖の上にあるということ。常時一般公開されている参観灯台で、らせん階段を登ってデッキへ。階段は100段ほどもあるからなかなかきつい。しかし、デッキに出ると一気に眺望が広がる。

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(写真5 塩屋埼灯台。美しい姿をした灯台だ)

 この爽快感を味わいたくて灯台を訪ねるようなもの。眼前は大きく広がる太平洋である。両手を広げて余るほどだから 200度もの眺望。左手は薄磯の砂浜の海岸で、遠くに巨大な煙突が見えるが、広野火力発電所かもしれない。右手は豊間の漁港が見えている。眼下では岩礁を波が洗っており、船舶にとっては難所であろう。灯台の北が砂浜で、南は海岸段丘となっている。
 デッキに立つと、二つの海岸線の違いがくっきりとわかって面白い。地図を広げて指ではかると、犬吠埼灯台から金華山灯台の中間に位置するようだ。
 日本の灯台50選。

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(写真6 灯台資料室に展示されている四等閃光レンズ。陸奥湾の平舘灯台で使用されていたものだという)

 敷地内には灯台資料室があって、灯台の仕組みなどが説明されてあった。レンズも展示してあって、レンズが回転して光を放つ仕組みがわかるようになっていた。

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(写真7 映画「喜びも悲しみも幾年月」の記念碑)

 灯台の麓には二つの大きな記念碑がある。一つは、映画「喜びも悲しみも幾年月」(監督木下恵介)のもので、ここの灯台長夫人の手記が原案となったということだった。また、ロケも行われたとのこと。
 もう一つは、塩屋崎を歌った美空ひばりの「みだれ髪」の歌碑である。塩屋崎を有名にしたのはこの哀愁のこもった歌だったのかもしれない。実際、訪れている中高年の人たちは流れてくるひばりの歌を聴いて喜んでいた。
 なお、塩屋埼灯台は、東日本大震災で地震被害に遭った灯台で、9ヶ月間も消灯していて、再点灯したのは11月30日だった。

<塩屋埼灯台メモ>(灯台表、ウィキペディア等から引用)
航路標識番号[国際標識番号]/1801[M6512]
位置/北緯36度59分7秒 東経140度58分9秒
名称/塩屋埼灯台
所在地/福島県いわき市平薄磯字宿崎34
塗色・構造/白色 塔形 コンクリート造
レンズ/第3等大型
灯質/単閃白光 毎15秒に1閃光
実効光度/44万カンデラ
光達距離/22海里(約40キロ)
塔高/22メートル(地上 - 塔頂)
灯火標高/73メートル (平均海面 - 灯火)
初点灯/1899年(明治32年)12月15日
管轄/海上保安庁第二管区海上保安本部福島海上保安部
歴史/1899年(明治32年)12月15日煉瓦石造で建てられ初点灯した。
1940年(昭和15年)3月30日鉄筋コンクリート造に改築
2011年11月30日約9ヶ月ぶりに再点灯