ABABA’s ノート

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ダヴィド・ラーゲルクランツ『ミレニアム5』

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復讐の炎を吐く女

 世界的なベストセラーとなったスティーグ・ラーソン作『ミレニアム』シリーズは、第3部まで進んだところで著者ラーソンの死によって終了していた。衣鉢を継いだのが同じスウェーデン人の作家ダヴィッド・ラーゲルクランツで、主人公や主な登場人物も踏襲している。いわば、ラーソン作が第一シリーズ、ラーゲルクランツ作が第二シリーズと位置づけられないこともない。
 その第二シリーズも本書が2作目。復讐の炎を吐く女とタイトルがつけられている。翻訳がヘレンハルメ美穂+久山葉子で、両人ともスウェーデン在住の翻訳家であり、スウェーデン語からの直接の訳出となっている。
 物語は、第1部からの主人公、リスベット・サランデルが女子刑務所に収監されている場面から始まっている。例によって刑務所内は陰湿な暴力によって支配されているが、リスベットは意に介さない。
 そんな折、リスベットがこの世でただひとり心を許している、かつての後見人で弁護士のホルゲル・バルムグレンが面会に来て「レジストリー」という言葉を聞いたことがあるかと尋ねられたが、そのときにはリスベットは知らないと答えていた。しかし、自分の出自に関わることかもしれないとはぼんやりとは思ってはいた。
 そうこうして、ホルゲルが惨殺された。車椅子生活を余儀なくされ身動きも満足にとれないような老人に何の恨みがあったものか。
 身の毛もよだつような非常に怖い物語だ。出てくる言葉を拾っただけでも、強制断種、民族浄化などとあり、「子どもを里子に出すことで、社会環境と遺伝的要素が人間に与える影響を解明できる」、「どうすれば強靱で調和のとれた人間ができあがるかを解明して」などとあり、何やらホロコーストを想起させる。
 文庫上下2冊の長編を大胆にはしょるけれども、最後の、ホルゲルの葬儀の場面で、リスベットの背中にあるドラゴンタトゥーの秘密が明かされたとだけは書いておこう。   

  それにしても、第4部の時にも感心したが、本書第5部においてもラーゲルクランツはラーソンの作風を実に巧みに展開していた。作者が変わったとは感じられないほどだ。ただ、第5部に至ってやや暴力的となったとはいえるようだ。
(早川文庫上・下)