ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

今村夏子『むらさきのスカートの女』

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芥川賞受賞作

 面白い。近年の芥川賞受賞作では出色ではないか。滑らかだし読みやすい。だから一気に読める。
 しかし、だまされてはいけない。読み進んでふと気がつくと内実恐い物語である。特に後半はミステリーじみてくる。
 むらさきのスカートの女は、仕事があったりなかったり、働いたり働かなかったり、髪はバサバサで身なりも整わない。商店街をひょうひょうと歩いていて知らぬ人がいない。商店街のパン屋でクリームパン一個を買って、公園のベンチで食べるのが習慣。公園で遊んでいる子供たちにも知られてちょっとした有名人だ。
 ここのところどこの面接を受けても採用されず、三ヶ月も働き口がない。案じた「わたし」は自分が働いているホテル客室清掃員に誘導すべく仕掛ける。求職情報誌をいつもの公園のベンチに置き、面接に備えて髪を洗うよう試供品のシャンプーをアパートのドアノブにぶら下げておいた。
 作戦は成功しむらさきのスカートの女は面接に受かって採用された。初め低かった声も特訓の甲斐があいさつは大きくなり、仕事にもすぐ順応した。
  むらさきのスカートの女の行動が「わたし」によって逐一書き込まれている。しかし、考えてみれば、この「わたし」っていったい誰なんだ。何でこんなに四六時中観察しているんだ。というよりも、これはもう観察ではなくて監視ではないか。ストーカーかい?
 なかなかくせ者のラストである。
(文藝春秋9月号所収)