ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

映画『新聞記者』

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(写真1 映画館に掲示されていたポスターから引用)

黒いサングラスをかけた羊の意味

 ある日、東都新聞社会部に大学新設に関わる政権がらみの告発情報がFAXで届く。真偽を確認するよう若手の女性記者吉岡が命じられる。FAXは匿名によるもので、表紙には黒いサングラスをかけた羊の絵が描かれていた。
 調べを進めるうちに、案件は内閣府がらみのもので、医療系の大学とわかるが、しかしなぜ案件が文科省あるいは厚労省が担当していないものか漠然とした疑惑が広がり、担当は内閣府の神崎らしいと突き止める。そうした矢先、神崎はビルの屋上から飛び降り自殺をしてしまう。
 他方、内調(内閣情報調査室)の若手官僚杉原は、外務省からの出向だったのだが、命じられている業務が、現政権に不都合なニュースの操作ばかりで、公務員としての信念に反する内容に葛藤を重ねていた。
 そんな折、北京大使館勤務時代の上司である尊敬する神崎からの誘いで会食する。神崎は屈託のある様子で、「過去の自分に叱られる」と吐露していたが、北京在勤時代の5年前に身の保身から心ならずも命令に従って唯々諾々とした経緯があり、今また同じ轍を踏む瀬戸際にあった。
 吉岡は神崎の通夜の会場で杉原を見かけ、内閣府の役人と知るや接触を深めていく。杉原は当初吉岡の接触を敬遠していたが、吉岡の追求が神崎自殺の動機解明につながるものと考えていった。
 大学新設に関する政権がらみの事件といえば、これはもう現政権に関わる例の内容ではないか。ただし、この映画は劇映画であって決してドキュメンタリー映画ではない。しかし、それだけにと言うべきか、追及の手は厳しいものとなっており、極めてサスペンスなものとなっている。
 吉岡の記者魂は、同じ記者だった父親譲りで、「誰よりも自分を信じ疑え」という言葉を信念としていたのだった。
 結局、この映画は、吉岡の新聞記者としての信念と、杉原の官僚としての使命感という二つの矜持がぶつかり合って二乗倍になったようなもので、面白くはあるのだがドラマの独創性ということではどうだったか。また、タイトルを新聞記者としたにしては、そして政権を揺るがすようなネタをトップ記事にしたにしては、新聞社の描写に苛烈なリアリティが薄かった。強く言えば、新聞記者というタイトルはいかがなものかと思われた。
 ただ、告発文書の表紙に描かれていた羊の絵が何を示唆するものなのか、なかなかわからなかったのだが、神崎の自宅書斎で見つかった告発文書を補完する資料にDUGWAY SHEEPという言葉があり、驚愕のパズルの絵がはまったのだった。DUGWAY SHEEPとは知る人ぞ知るアメリカの実在の事件のことで、黒いサングラスをかけた羊の意味するところを示すこのエピソードは秀逸で、そうするとこの映画はただならざる告発となっていたのだった。なお、ラストシーンはいかようにも受け取れるもので、最後は観客の判断に任せたものであろうが、劇的というよりも、最後になって演出者の腰が引けていたように感じられた。
 吉岡を演じたシム・ウンギョン、杉原役の松坂桃李はともに若若しくてよかった。監督は藤井道人。