ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

川本三郎『あの映画に、この鉄道』

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日本映画鉄道紀行

 映画に登場した鉄道が丹念に取り上げられている。
 ざっと数えてみたところ、取り上げられた映画は合計241本。登場した路線や駅は実に404。著者は評論家。映画や鉄道に造詣の深いことはよく知られているところだが、それにしてもよく歩いたものだ。そして感心するところはきちんとメモが取られていること。しかも、本書は書き下ろしだというから驚く。
 きっかけは、山田洋次監督の「男はつらいよ」シリーズだったという。「男はつらいよ」を見ては、そのロケ地を歩き、鉄道に乗るのがひそかな楽しみになったという。
 昭和20年代30年代の映画が多いようだ。当時はまだ日本に蒸気機関車が健在だった時代だし、今では廃線になってしまった鉄道が現役時代の姿で映画に出ていて、これは鉄道の記録としても重要なこと。著者自身も「そのことを記録に残しておきたいという気持ちも本書のモチーフになっている」と述べている。
 また、「本書を読んで、鉄道ファンが、あの映画にこの鉄道が出ていたのかと知り、また、映画ファンが、あの映画にはこういう鉄道が出ていたのかと知ってもらえればうれしい」とも書いている。
 本書は、まるで、日本映画鉄道紀行のごときものだが、実際、著者自身も、そのように銘打ちたいところだがといきさつを書き、本書では東京を割愛しているため断念したと述べている。つまり、東京を走る鉄道は電車ばかりで、ローカル鉄道を中心とした本書には合わないからだというわけである。
 倉本聰脚本、降旗康男監督「駅 STATION」。主演は高倉健。「冬。刑事の高倉健は正月休みに、増毛の先の漁師町、雄冬の実家に帰る。冬の増毛駅に降り立つ。雪が多く、駅舎も町も雪に埋もったかのよう」とあり、「六年ほど前、増毛駅に行ったが、駅員がいないかわりに、駅舎のなかにそば屋があるのに驚いた」と映画の舞台を訪ねた感想を書いている。
 実は、私も増毛駅には4度も降り立ったことがあり、とても思い出深い。何しろ、2003年7月17日に旧国鉄全線を踏破した記念すべき最後の駅がこの増毛駅だった。その折り、そのそば屋はすでに営業中だった。列車が発着するわずかの時間だけの営業のようだった。映画で刑事たちが張り込んだ駅前のホテルは、ロケでは日通の営業所を使ったものだったが、今はその建物もない。
 また、私も豪雪の増毛駅に降り立ったことがあるのだが、実際、駅舎も町も埋もれたようだった。その増毛駅も、2016年12月5日留萌本線の留萌-増毛間が廃線になってしまった。土産物店があったが、今ではどうなっているものか、知りたいとは思うものの、鉄道がなくなってしまってどうやって行けというのか。卒業した小学校が廃校でなくなってしまったような寂しさがある。これからは映画の中で再会することになるのだろうか。(キネマ旬報社刊)