ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

映画『マイ・ブックショップ』

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(写真1 映画館に掲示されていたポスターから引用)

本好きにとって至福の空間

 印象的な結末だった。衝撃の後に救いが現れた。本はいつまでも途絶えない、永遠に伝わっていくということが示されて大変心強いものだった。
 1950年代のイギリスが舞台。フローレンスが、それまで1軒もなかった田舎の海辺の村で書店を開く。16年前に戦争で亡くなった夫との約束の夢を叶えたのだった。フローレンスの基本は、良書を選別して品揃えをするというもの。
 店の名前はTHE OLD HOUSE BOOKSHOP。壁いっぱいの書棚。磨き込まれた木の床。座り心地の良さそうな椅子。テーブルには平積みの本。窓にはおすすめの本。通りには平積みのワゴン。フローレンスは、訪れる客と話しながら好みそうな本を薦める。空いた時間にはソファにくつろぎながら読書。
 開業当初から店は繁盛していた。フローレンスはクリスティーンという名の少女を助手に雇う。クリスティーンは本は読まないといいながら、てきぱきと店を手伝う。このクリスティーンが最後にこの映画を救ってくれた。ラストシーンをみて感動で涙を流さない人はいないのではないか。
 実は、書店を開くという話が伝わると、地元の有力者夫人から書店はやめて芸術センターにした方が良いと横やりが入る。
 一方、フローレンスは、読書三昧で屋敷にこもってばかりいるという年配の紳士ブランディッシュに知己を得る。
 ブランディッシュからはある日レイ・ブラッドベリ著『華氏451度』の注文が届く。トリュフォーの映画で私は知っていたが、451度とは紙の発火点をさしていた。本映画では、この書が重要な暗喩を示していた。
 フローレンスは『ロリータ』(ウラジミール・ナボコフ著)を読んで刺激的な部分もあるがすばらしい傑作と思い、ブランディッシュに相談する。すると彼はいい本だと太鼓判を押してくれたのだった。
 しかし、『ロリータ』が店頭に並ぶや、保守的な村人はこぞってフローレンスを廃業に追い込んでいくのだった。
 フローレンスを演じたエミリー・モーティマーがとても良かった。優しくて本好きの心が伝わってきた。表情が豊かで、それだけで演技しているようだった。ただ、クリスティーンに言わせれば、ちょっと他人に甘いということ。実際、そのことで終盤思い知らされる。
 本好きがいて、本屋が生まれる。人との出会いが本との出会いへとつながっていく。全編に漂う静寂にも知的な画像が広がっていく。加えて『華氏451度』や『ロリータ』といった傑作が題材として挿入される。本好きで映画好きには至福の時間だった。
 書店を営むというのは本好きにとってはとてもうらやましいこと。ましてや、自分の好みや考えに沿って品揃えをしていくというのは理想とするところ。
 イザベル・コイシェ監督作品。原作はブッカー賞作家ペネロピ・フィッツジェラルドの『ザ・ブックショップ』。