ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

映画『斬、』

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(写真1 映画館で配布されていたパンフレットから引用)

これも一つの幕末描く

 塚本晋也の監督・脚本・撮影・編集・製作作品。出演は池松壮亮、蒼井優そして塚本晋也自身も。
 江戸末期、250年も続いた太平の世が揺らぎ始めた時代。疲弊する農村、困窮し浪人に身を落とす武士。
 江戸に近い農家で手伝いをしながら暮らす池松演じる若い浪人。農家には蒼井演じる若い娘とその弟。農作業のかたわら、池松は弟に剣の稽古を付けている。蒼井は池松に好意を抱いている。
 その頃、浪士の中には京に上り浪士隊に入り太平の世を守ろうとする動きが増えていた。浪士隊の結成を目論む塚本演じる年配の浪人は、池松の稽古の様子を見てその腕に惚れ、浪士隊に加わり京へ行こうと誘う。
 そんな折、盗賊と化した浪人が集団で村を襲う。村人たちは池松に村を守ってくれと頼む。しかし、池松はどうしても人を斬れなかったのだった。
  幾通りにも読める映画だ。武士でありながら剣を抜けない池松。蒼井が盗賊に襲われた極限の場面で池松はどう行動したのか。蒼井は、「何で武士は人を斬れるのですか」と叫ぶ。京へ上る浪士が多い中、蒼井は「何をしに京へ行くのですか」と池松に問う。いよいよ明日という出立を前に池松の苦悩が伝わってくる。
 蒼井優が良かった。そこに存在すること自体が演技になっている姿は出色だ。
 二人の武士が決闘する場面があった。一人が正眼に構え、一方は八双に構えていた。古来、幾多の時代劇で見られてきた果たし合いの古典的場面で、塚本は時代劇は初めてだったらしいが、この場面が撮りたくて果たし合いを設定したのではないかと思われたほどだった。
 ただ、武士の所作に注目して観ていたが、残念ながら美しいと感心するほどのものではなかった。
 なお、劇中で話す蒼井の言葉は、時代を映したものではなく、現代の話し言葉になっていた。新鮮ではあったが、演出の意図を計りかねた。ほかにも、この映画は主題はわかりいやすいのに、細かいところでわかりにくいことが多くて、タイトルの斬に句読点の  、をわざわざ付けたのはどういう意味だったのか。