ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

今野敏『去就』

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隠蔽捜査6

 警視庁大森警察署署長竜崎伸也を主人公とする人気シリーズの最新刊。
 竜崎は東大法卒のキャリア組で、警察庁官房総務課長まで歴任したエリートだったが、つまらぬ責任を取らされて大森署に飛ばされていた。階級は警視長で、警視正程度が任命される所轄の署長は明らかに左遷だった。
 ただ、竜崎自身は左遷にも意に介するところがまったくなく、淡々と職務をこなしていた。
 相変わらず、原理原則を貫き通し、権力に媚びることもなく、上司に下手な忖度をするということもない。曲がったことが嫌いで融通無碍、
 しかし、責任を回避することはなく、現場を尊重し、専門職の指揮に任せる度量があって、大森署に赴任してきた当初は、あまりに頭が固くて煙たがられていたが、不偏不党だし評価が適正で、次第にシンパが増えてきている状況にある。
 大森署では、警察庁、警視庁本部からの指示によりストーカー対策チームの編成を急いでいた。
 折から、管内で、男が若い女を連れ出した連れ去り事件が発生していた。単に遊びに出て帰ってきていないということもあるし、駆け落ちということもある。しかし、どうやら略取・誘拐事件に発展しそうな様相になってきた。
 他方、連れ去り事件で名前が挙がってきた男が殺されるという殺人事件が発生した。また、連れ去り事件には二人の男が関与していることが明らかになっていたが、殺された男とは別のもう一人の男は父親が保持していた散弾銃を持って出掛けていることも報告されていて監禁事件の様相も帯びてきた。
 次々と入ってくる捜査情報。緻密な分析、矢継ぎ早の指揮。刻々と変わる場面転換。緊迫の度を増し、臨場感が高まっていく。警察小説の醍醐味である。
 刑事たちのカン、エキスパートたちの経験と能力、そういうものを指揮官たる竜崎がすくい上げ尊重し、任せるものは任せる、このストーリーが本シリーズの魅力を分厚くしている。
 本書では終わり近く、竜崎が特別監察の対象となった。大森署を監督する第二方面本部長が訴えたもので、竜崎署長は本来方面本部長が持っている権限に対して、越権行為があったとするもので、警務部長による特別観察の結果、竜崎の越権行為は見られなかったと判断された。ただ、竜崎に対する異動については取りざたされていることが確認された。あるいはどこかに異動するのかも知れない。もちろん今度は左遷ではないだろうが。
(新潮文庫)