ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

久住昌之『線路つまみ食い散歩』

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〝つたい歩き〟鉄道紀行

 つたい歩きとは、鉄道線路沿いをつたって歩くこと。
 鉄道趣味世界も、撮り鉄、乗り鉄や車両派、時刻表派などと幅広いが、〝つたい歩き派〟もその一つか。新しい流派だろうが、乗っていては見えてこないものが見えてくるのだろうか。
 著者は、人気テレビ番組『孤独のグルメ』の作者で、漫画や音楽などと幅広く活動している。
 その著者が、全国のローカル線を訪ね、つたい歩きを紀行文にまとめたのが本書。視点がユニークで観察が鋭く、ゆるい文章が持ち味。そして歩くことの時間と距離が絶妙。途中で見つけて入った店での食事などの場面は、さすがに孤独のグルメの作者らしく楽しい。
 17編が収められており、その路線も、途中から乗って途中で降りたり、時には終点まで列車で行って戻るように歩いたりなどと様々。
 「蒸気機関車に乗って、つたい歩き!」では、真岡鐵道をまずは下館から真岡までSLで向かい、その真岡から益子まではいよいよつたい歩き。
 「道は線路に沿ってまっすぐ。稲刈りの終わった水田の上に、青空が広がる。黄緑色の畑はなんだろう? 用水路の水の音が、コロコロと耳に気持ちいい。日本最大の平野、関東平野の広大な景色の中を歩いている実感がある。胸がすくようだ。」とあり、読んでいてこちらにも秋晴れの清々しい風景が広がってくるようだ。
 帰途、歩いてきたところを再びSLで戻る車中では、「ボクの歩いてきた道がずっと窓の脇に続いている。ああ、これもあった、あれもあったという、つたい歩いた者にしかわからない楽しさがある。汽車から見る田園も美しい。時々、景色に煙が流れる。」とあって、秋は思わず感傷的になってくる。
 中には、香椎線では「つたい間違えたり」、宇野線では「とうとう線路は見えなくなってしまった」りする場面もあって、つたい歩きの苦労もあるが、「でも、いい旅よりヒドイ旅、おいしいものより、マズかったもののほうが案外記憶に残っているものだ」と述懐している。
 私は、全国の全鉄道全線を完全に乗車したことがある徹底した乗り鉄つまり車窓派だが、本書を読んでいつかどこかでつたい歩きをしてみたいものだと思ったものだった。その際、どの路線がいいものか、早くも思案していて、何しろすべての路線の車窓を見たことがあるわけだが、つたい歩きとの違いを体験してみたいとも考えたのだった。
(カンゼン刊)