ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

映画『顔たち、ところどころ』

f:id:shashosha70:20180929172813j:plain

(写真1 映画館に掲示されていたポスターから引用)

面白い趣向

 映画監督アニエス・ヴァルダ88歳と写真家JR33歳が映画を撮ろうと旅に出る。JRが運転する小型トラックには、写真撮影のスタジオがセットされており、畳1枚分もあるような大きな写真をプリントできるプリンターも組み込まれている。映画は、写真を撮りながら旅を続ける二人を追いかけたドキュメンタリーという趣向である。脚本・監督・出演もアニエス・ヴァルダ、JR。
 アニエスが元気で映画を作っていたということにまずは驚いた。ヌーヴェル・ヴァーグ全盛のころ彼女はセーヌ左岸派で、確かアラン・レネの薦めで映画を撮り始めたのだった。ジャンリュック・ゴダ-ルやフランソワーズ・トリュフォーら、ヌーヴェル・ヴァーグがその名の通り革新的な映画で一世を風靡していたのに対し、レネらセーヌ左岸派は知的な映画で存在感を示していた。
 二人のトラックは田舎町を訪ねる。廃坑になった炭鉱街では人々が次々と立ち退く中、一人炭住に残っている女性を写す。今は亡き坑夫らの写真と並べられて家の外壁に張られた大きな写真を見て女性は感激のあまり涙を流し、いつまでもここで暮らすと叫ぶ。
 写真の対象は人の顔。港湾労働者だったり庶民の顔が多い。主にJRが写していて、カメラはライカ。それも単焦点レンズではないか。さくさくと写していて被写体に余計な緊張感を与えない。
  写した写真は大きくプリントして、給水タンクだったり、鉄道タンクローリーだったり、鉄道コンテナだったりに貼り付ける。これがなかなか味がある。アニエスはコロコロしてかわいい。JRとの道行きは55歳という年齢差を考慮したのか二人の距離感が素晴らしい。
 また、映画の中に、ルイス・ブニュエルやジャンリュック・ゴダールの名前が出てきたりして、映画好きとしては興趣が尽きなかった。
 そう言えば、ゴダールに会いに行こうと二人で出向く。しかし、約束したのにゴダール(アニエスはジャンリュックと呼んでいた)は留守をしていた。明らかに失望したアニエスは「ジャンリュックは気まぐれな哲学者だから」と言って気を取り直していた。
 劇中、トラックの進む風景は実に美しいもので、また、アニエスがJRに話した「顔が人生を語る」という言葉が印象的だった。