ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

上田電鉄で別所温泉へ

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(写真1 別所温泉の玄関 上田電鉄別所温泉駅)

信州一の古湯

 小海線を終点小諸まで乗り切ったあとは、別所温泉に宿を取った。このあたり、小諸、軽井沢、上田などと魅力的な町が連なっているのだが、やっぱり温泉を選んだのだった。
 小諸では、小海線としなの鉄道の乗り継ぎ時間を利用して懐古園として知られる小諸城址を見物した。駅から徒歩5分と近く、立派な大手門をくぐると、野面積みの石垣が遺っていて、古城の風情を漂わせている。展望台に立つと、眼下に千曲川が望めてとても情感のあるものだった。園内には、小諸なる古城のほとり~と詠んだ島崎藤村の「千曲川旅情のうた」の歌碑があって、それこそ旅情を深くさせてくれる。
 さて、別所温泉へは、小諸から上田までしなの鉄道、上田からは上田電鉄別所線に乗った。
 上田駅は、JR北陸新幹線、しなの鉄道、上田電鉄と3社3線が乗り入れているが、しなの鉄道と上田電鉄は向かい合わせに改札があり、より近い関係が窺われる。
 上田電鉄は片側1線のホームに2両の電車。15時06分、発車してすぐに千曲川を渡った。沿線は、上田の近郊住宅地という様子で、上田盆地を淡々と走っている。土曜の下りだから電車は空いている。
 上田から約30分で終点別所温泉。駅舎もそうだし、絣の着物に袴をはいた女性駅員が迎えてくれて復古調だ。鉄道そのものを観光資源にしている様子が窺える。
 駅から緩い坂道を登っていくと5、6分ほどで温泉街。信州で一番古い温泉場といわれればなるほど落ち着いたたたずまいだ。15軒ほどの旅館があるらしく華やかではないがそれなりににぎやかだ。

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(写真2 別所温泉外湯の一つ大湯)

 別所温泉の楽しみは外湯巡り。大湯、大師湯、石湯と三つの共同浴場があり、私はこの日その三つ全部に入ってみた。
 大湯が最も大きく立派。温泉街の外れにあるが、宿泊客の利用が多かった。大師湯と石湯は温泉街にあるが、規模は小さく、宿泊客の利用は少なかった。私の選定基準であり好みはお湯の温度。徹底して熱い湯が好きなのだが、この点では石湯が最も熱かった。それでも42度もなく、ちょっと物足りなかった。
 大師湯は最もぬるくて、地元の方々はぬるい湯にゆったり浸かるのが体が温まっていいという高説だった。それはそうだろうが、こればかりは好き好きだからどうしようもない。
 ぬるい湯だからそれこそゆったりした気分で話が弾んで、然らばどこが好きかと問われたから、長野県下ならば野沢温泉が断然いいと答えたら、全員うなずいていた。
 長野県はそれこそその野沢温泉のほかにも、上諏訪、戸倉上山田、湯田中、渋などと人気の温泉場は数多いが、温泉街全体の情緒ということではこの別所温泉は上位にランクされるのではないか。
 散策するにもまとまりのいいのが特徴で、温泉街の中心には北向観音があるし、安楽寺も近い。北向観音の境内ではこの日ジャズの演奏会が行われていて夜遅くまで大変にぎわっていた。旅館で渡された団扇を持参したらビールを1杯サービスしてくれた。
 安楽寺はなかなか立派なお寺だった。曹洞宗だが、面白いのは国宝に指定されている八角三重塔。鎌倉末期の建立で禅宗様だが、塔が八角形というのは珍しくはないか。また、四重に見えるが、一番下は裳階(もこし)なそうで、つまりひさしなわけで、屋根には数えないようだ。いずれにしても、我が国最古の禅宗様建築だし、境内の緑を背景にゆかしくも年輪を感じさせる堂々たるたたずまいだった。

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(写真3 安楽寺の八角三重塔)