ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

マイクル・コナリー『死角 オーバールック』

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ハリー・ボッシュ・シリーズ
 亡くなった友人の遺品が送られてきた。段ボール箱には文庫本がいっぱいに詰まっていてマイクル・コナリーの著作が数十冊も含まれていた。私がミステリー好きと知ってのことらしい。
 確かにミステリー好きではあるが、このアメリカの人気作家コナリーのものについてはこれまで読んだことがなかった。それで、折角のことでもあるし、友人への追悼も込めて一冊手に取った。
 舞台はロサンジェルス。主人公はロス市警殺人事件特別捜査班刑事ハリー・ボッシュ。人気のシリーズのようで、本作で13作目ということである。
 マルホランド・ダムの展望台で殺人事件が発生した。現場はレイク・ハリウッド・ドライブを登っていったところで、高級住宅街であり、周辺にはマドンナの家もある。被害者は、ひざまずかされ、銃弾が2発撃ち込まれていた。まるで処刑されたようだった。
 捜査をしていると、そこへFBIのレイチェル・ウォリング特別捜査官が到着する。どうしたことかといぶかると、被害者はスタンリー・ケントという医学物理士で、放射性物質を直接扱うことのできる人物であり、テロの可能性があるというのだった。
 ハリーとレイチェルはケントの自宅に向かうと、そこにはさるぐつわをかまされ両手両足をを縛られたケント夫人がいた。夫人は二人組の男が襲ってきて拳銃や鍵束と自動車を奪っていったと話した。二人組は中東訛りだったという。
 部屋のパソコンを調べると夫に宛てたメールが見つかり、そこには縛られた夫人の写真と一緒に、セシウム放射性物質を回収して展望台までもってこいという指示があった。
 死体についていたICタグから聖アガタ病院を調べると、やはりケントがセシウムを持ち出していたことが判明し、テロ事件の様相が濃くなっていった。
 ハリー・ボッシュは56歳。「自分は、ひとたび玄関を出ると、その仕事を果たすため(たとえどれほどかかろうと)投げださず、全力を尽くす人間であるのだ」と自分を見ている。
 トラブルをいとわないようなところもあって、特にFBIとは徹底してそりが合わない。もっとも、これはロス市警の伝統で、FBI側もロス市警についてそのように見ている。
 この事件においても、FBIがテロ事件を縦にロス市警の関わりを制限しようとするや、ハリーは「これはおれの殺人事件だ」と言って譲ろうとしない。
 ロス市警の本部をパーカーセンターと言うことがわかったし、アローヘッド・ドライブやフリーウエイ170号線などとロス市街の街路や高速道路が頻繁に登場する。私はロスには一度だけしかいったことがなく、もう少し街路に通じていればもっと楽しく読めただろうにと思われた。市街中心の高速道路は渋滞がひどいようで、ハリーはもっぱらハイウエイを避け一般道路を走っている。
 また、冒頭で、ハリーがジャズを聴いている場面があって、(サックス奏者として知られる)フランク・モーガンの曲だと語っていて、ピアノはジョージ・ケーブルズだともあり、いかにもロスを舞台にした作品だと感心したようなことで、ジャズファンならずともうれしくなってくる。
 ただ、レイチェルとはこれまでに因縁があったようだし、FBIにはハリーに対し厄介な人物との認識もあるようだし、シリーズのこれまでの作品を知らないと、すっかり戸惑うわけではないが滑らかさには欠けた。
 結局、この物語は最初から最後まで12時間ちょっとで終わっていたのだった。こういうのをノンストップストーリーというのだったか。
 ところで、くだんの友人とは随分とディカッションをした。ソフトだしこちらの意見にもきちんと耳を傾けているのだが、いい加減に終わらせるところがなくて、たじたじとなることもしばしばだった。テレビ局に勤めていて、いい仕事をしているなと思っていたのだが、局内でぶつかることも多かったのか、途中で辞めてしまった。ハリー・ボッシュに似ていたのかも知れない。あるいは自分を重ねていたのかも知れない。古沢嘉通訳。
(講談社文庫)