ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

古書店街の名画座神保町シアター

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(写真1 神保町シアターの外観)
『山の音』を見た
 神保町にはちょくちょく行く。古書店をのぞきながら思わぬ本を見つけて馴染みの喫茶店でひもとくのは至福の時である。
 神保町では映画もよく見る。新作ものでは岩波ホールだが、旧作ものでは神保町シアターとなる。
 神保町シアターは、靖国通りに並行する裏通りのすずらん通りを少し入ったところにあり、三省堂書店の裏、そのまた画材の文房堂の裏側に位置する。もう10数年にもなるか、しゃれた建物である。映画館のほかに2階には吉本興業の常設館神保町花月が劇場を構えている。
 岩波ホールの場合には、あらかじめかかっている映画を調べてから足を運ぶことがいつもだが、神保町シアターには通りがかりにのぞいてみて、面白い映画があればぶらっと入ることがしばしばだ。
 岩波ホールがミニシアターとして新作ものを上映しているのに対し、神保町シアターはいわゆる名画座であって旧作をもっぱら手がけている。

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(写真2 ロビーの様子。年配の常連客に加え土地柄学生の姿も少なくない)
 100席ばかりの小さな映画館だが、毎日日替わりでかつての名作が上映されているし、常連客ばかりか、映画を勉強している学生にも人気のようだ。
 最近では私はここで『山の音』を見た。成瀬巳喜男監督作品で、原作は川端康成の同名小説。原作はもとより映画も名作として有名。1954年の製作。東宝の配給。
 出演は、主人公の菊子に原節子、夫に上原謙、義父に山村聰、義母に長岡輝子という配役。人気俳優、名優揃いである。
 舞台は鎌倉。かいがいしく働く菊子だが、義父は老夫婦の世話ばかりではかわいそうだと独立を勧める。夫は浮気をしていた。義父は菊子が不憫になる。義父の存在に救われていた菊子だったが、やがて菊子は家を出ることを決意する。
 葛藤が丁寧に描かれていた。登場人物のわずかな表情にも感じられて、役者の力量にも加えて演出の細やかさが際立っていた。
 劇中、「私は自由でしょうか」と菊子が自問する場面があったが、隠れたところにいくつもの意味があるようで深遠だった。戦後10年を経ずして嫁が自由を考える時代になっていたということか。また、義父の菊子に対する優しさは、ある種恋情にも見えたが、これはうがった見方だっただろうか。
 ふらっと入った映画館でこれだけの名作が見られる。名画座はいいものだ。

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(写真3 かつて上映されたものであろうか、ロビーに張り出されている映画のパンフレット)