ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

映画『花咲くころ』

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(写真1 映画館で配布されていたパンフレットから引用)
ジョージア映画
 ジョージア映画である。どういう映画を作るのか非常なる興味があって初めて見た。
 ジョージアは、黒海東岸に位置し、北にロシア、南にトルコと接する。旧ソビエト連邦の構成国だったが、1991年に独立した。その際、日本政府はジョージア国政府の要請を受け入れて国名をグルジア表記からジョージアとした。グルジアはロシア語読みだった。首都はトビリシ。我々にとっては、大相撲初場所で平幕優勝した栃ノ心の母国として馴染み深い。映画で登場する人物たちも栃ノ心のように彫りの深い顔立ちである。
 仲の良い二人の少女エカとナティア。中学生くらいか。幼さと大人へ背伸びする姿が同居する二人の少女を清冽に描いて映画はまずは美しい。
 舞台は、1992年という設定だから、独立を契機に起こった内戦のきな臭さの残る首都トリビシ。生活は貧しく、パンの配給にいつも長い列ができている。
 ストーリーに複雑さはないのだが、暗喩が多くて注意深く見ていく必要が感じられた。
 父親のいないエカ。父親はどうしたのかと問いただすと家族は黙り込む。父親の引き出しを調べると、表紙にCCCPと表示されたソ連邦時代のパスポート。
 一方、ナティアは、好意を寄せる少年のラドからピストルを贈られる。ある日のこと。パンの配給の列に並んでいたナティアは、少年グループに車で連れ去られる。
 ここで映画はいきなり結婚披露宴の場面へとシフトされる。新婦は何と誘拐されたナティアだったのだ。ジョージアには誘拐婚?あるいは略奪婚?の因習があって、現在に伝わっているものらしく、問いただすエカに対しナティアは「愛はあとからついてくる」と語る。
 印象的な場面が二つあった。
 一つは、学校帰り、篠突く雨の中をかける二人。ずぶ濡れになったエカ。
 二つには、ナティアの披露宴でエカが踊る場面。伝統的な踊りなのであろうか、取り囲む参列者は愉快そうに手拍子を取る。踊りは激しく延々と続く。
 全編にちりばめられたメタファーと細かなエピソード。どのような心象風景だったのか。ストーリーが易しいだけにこの難解さは何か。鹿爪らしく強いて言えば、少女たち特有の感受性の強い姿があり、女性をないがしろにする因習があり、戦争や暴力に対する強い抵抗が描かれていたし、革命への郷愁とおののきすらもうかがわせられた。
 そしてラストシーン。収監されている父親に会いに刑務所に来たエカ。係官に年齢を尋ねられると14歳と答える。
 そうか、14歳だったのかと考える間もなくいきなりスクリーンが真っ暗になった。暗転したのかと思ったが、そうではなくて映画はここで唐突に終わったのだった。
 何ということか。はなはだ意味不明だった。少なくとも私にはそうだった。
  ただ、この映画は、ベルリン国際映画祭国際アートシアター連盟賞など世界中の映画祭で30もの受賞に輝いたことは紹介しておかなければならないだろう。
  ナナ・エクフティミシュヴィリとジモン・クロスの共同監督。脚本もエクフティミシュヴィリで、どうやら自らの少女時代の体験を投影したもののようだ。