ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

土佐から伊予へ

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(写真1 江川崎に停車中の予土線列車。0系こだまのヘッドに似せている)
大混乱の移動
 足摺岬からは、予土線と予讃線を経由して松山を目指した。
 予土線列車の始発は窪川。ただし、窪川と一つ目の若井との間は、線区上は土佐くろしお鉄道である。
 発車まで1時間以上も間があるので夕食を取ろうとしたのだが、駅前に営業中の店が見当たらない。そこで、客待ちをしていたタクシーの運転手に尋ねてこのみ食堂というところを紹介してもらった。
 小さな店で、75歳になるというおばあさんが一人で切り盛りしていた。ビールを頼んだのだが、つまみになるようなものは漬け物以外にはないとのこと。雪が降っているし外は猛烈に寒いのだが、やはり一口目はビールがうまい。女将によれば、窪川は格別に寒いのだという。
 それでグビグビと飲んでいたら、サンノジの刺身があるが食べるかと問う。もらい物だが、獲れたてだからおいしいはずだというし、しかもサービスするという。
 出てきたのが、まるで鯛の刺身。朱色をしていて美しい。口にすると、身に弾力があるし、臭みも何もくせがなくてとてもうまい。酒が進んで焼酎のお湯わりを飲んだら温まった。
  サンノジは初めてだったし、帰宅後調べてみたら、本名ニザダイというらしく、やはり鯛の一種なのであろう。
 勘定を頼んだら驚くほど廉い。やはり刺身の分は含まれていなかったようで、そうもいかないのでチップということで上乗せさせてもらった。寒い晩に、見知らぬ土地で温かいおもてなしを受けて、身も心も温かくなって列車に乗った。

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(写真2 サービスで出てきたサンノジの刺身)
 窪川18時43分発宇和島行き。私の旅の流儀としては、夜間の列車には極力乗らないことにしている。車窓が面白くないからで、初めての路線ならなおさらだが、予土線はこれまでに3度も乗っているし、短い日数で四国4県を回ろうとすると強行軍にならざるを得なかった。
 列車は1両のディーゼルカー。この車体がユニーク。先頭が0系こだまにそっくりではないか。いわゆる団子っ鼻というやつで、鉄道ホビートレインという列車愛称らしく、車内にもたくさんのミニチュア車両が展示してあった。
 日中ならば右窓に四万十川が見えて絶景の路線だが、何も見えず暗闇の中を進んでいく。それでも、時折窓外に灯りがちらほらすると、激しい旅情を感じる。
 半家(はげ)などという珍妙な駅があって江川崎。行き違い列車の遅れがあって8分の停車。それでもその後遅れをやや取り戻し4分遅れの20時48分宇和島到着。
 ここで予讃線の特急21時16分発の宇和海32号に乗り継ぐ予定だったが、先行する20時18分発の宇和海30号が大幅に遅れて21時13分に発車した。大雪の影響だったのだが、何のことはない、当初予定とほぼ同じ進み具合となったのだった。
 やれやれと思っていたら、20分も走ったあたり、卯之町で列車はぴたり停まってしまった。大雪に加え人身事故まで発生してしまったのだ。ホームに下りると、積雪が足首よりも深くなっていた。
 結局、この駅で1時間半も停車していて、その後も八幡浜などと遅れは増していき、松山に着いたら、日付が変わっていて3時間を超す遅延となっていた。
  旅をしていればいろんな場面に遭遇する。途中から大雨で運転見合わせ、代行バスで終着駅へ運ばれたこともあるし、大雪のため途中から運転不能となり、タクシーで送ってもらったこともあった。客はたった一人、それも不要不急の旅だし、タクシーなどもったいないと言って遠慮したのだが、乗車券の記載通りに運んでくれたのだった。
 そう言えば、寝台車で四国に向かっていた折、朝になって窓外を見ると、どうも様子がおかしい。予定通りなら岡山を出て瀬戸大橋にかかっているところ、それが琵琶湖の手前あたりでうろうろしているではないか。結局、この時は京都から新幹線で岡山へ向かい、そこから瀬戸大橋線に乗り継いだのだった。
 ダイヤの乱れは旅の計画を台無しにするが、時が経てばこういうことも忘れがたい思い出となるのだった。

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写真3 大雪と人身事故の影響で卯之町駅で停まってしまった予讃線特急宇和海30号)