ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

強風の渥美半島突端伊良湖岬へ

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(写真1 波打ち際に建つ伊良湖岬灯台)
欠航で三河湾渡れず
 豊橋鉄道渥美線で伊良湖岬を目指した。ただ、鉄道は長さ50キロある渥美半島の中間あたり三河田原駅が終点で、その先はバスとなった。ここでバスを待つ間昼食を取ろうとしたが、駅前に食堂もコンビニの一軒も見当たらなかった。
 12月26日田原駅前12時29分発豊鉄バス伊良湖岬行き。沿道は延々と農地が広がっている。特に農業用ハウスが多い。メロンの栽培で知られるが、キャベツなども多いようだった。
 途中、三河湾に出た。晴れてはいるが、風が強くて海上は荒れている様子だ。渥美半島は、石器時代の小刀のように細長く鋭く突き出ていて、南側は遠州灘つまり太平洋で標高数百メートルの山並が続いていて、北側はなだらかに三河湾に面している。北側の対岸には南北に知多半島が伸びていて、渥美半島と蟹のハサミの形をして三河湾を囲っている。
 そうこうして13時21分終点伊良湖岬着。約1時間も走ってきて1分と違わぬまったく時刻表通りの到着だった。バスの停留所は岬の付け根にあってフェリーターミナルになっている。
 停留所から歩いて10分ほど、灯台が見えてきた。伊良湖岬灯台である。途中、波打ち際に大きな岩石が組まれ遊歩道となっている。

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(写真2 灯台の眼前は伊良湖水道。対岸は志摩半島で、知多半島は右手に隠れている)
 ここの灯台は一風変わったところに建っている。つまり、波打ち際に灯台が建っているのである。灯台の基礎は海中に没している。つまり海抜ゼロという地点にあるわけである。私も随分とあちこちの灯台を見てきたが、沿岸灯台でこれは珍しいのではないか。
 地上から塔頂までの塔高が14.8メートルで、平均海面から灯火までの灯火標高が15.5メートルとあることからも、この灯台の立ち位置がわかろうというもの。
 灯台は白亜の円塔形で、太くややずんぐりしている。波しぶきが灯台に叩きつけられている。灯台の位置は北緯34度34分46秒、東経137度00分58秒とあり、レンズは第4等フレネル式だそうである。1929年の初点で、光達距離は12.5海里(約23キロ)とやや短いが、これで十分なのであろう。
  眼前が伊良湖水道で、名古屋港などを擁する伊勢湾の入口にあたるから海上交通量が多いはずだが、この日は波が高かったせいかさほどでもなかった。
 次第に雲が出てきたから風が猛烈に強くて、体がよろめくほどだ。岬は風が強いものだが、低い位置にある灯台でこの強さはまれなことだ。灯台の後背地には伊勢湾海上交通センターがあるはずだが、登り口を見つけられなかった。
 それにしても、どうしてこのような場所に灯台を建てたものであろうか。高台にある海上交通センターの位置なら伊勢湾も三河湾も大きく照らせただろうにと思われたが。この岬は海蝕崖のようだし、眼前の伊良湖水道を航行する船舶の安全を第一にすると、至近距離からの光りこそ大きな役割と考えたものかも知れない。
 岬を回り込んでもう少し進むと恋路が浜に出るはずだが、風に体感温度を奪われ寒くて、このあたり、藤村が謳ったように椰子の実が流れ着いたところなのだがとてもそんなロマンチックな気分に浸れず途中から引き返した。
  帰途は、船で三河湾を渡り、河和港を経て知多半島の突端師埼を目指す計画だったが、フェリーターミナルで運航状況を調べたら、何と強風のため欠航だという。来る途中海上の波の荒さから見て多少の懸念がなかったわけでもないが、何としたことか。
 師崎に行けば、師崎港の後背の高台にある羽豆神社から知多半島の突端羽豆岬と三河湾、伊勢湾が眺望できたのだがはなはだ残念なことになった。
 それにしても、このまま引き返したのでは、独歩の武蔵野ではないが、同じ道を帰るはいかにも愚かなこと、思案をしていたところ、鳥羽に渡るフェリーは出るとのこと。フェリーは大型船なので多少の強風は気にしないのであろう。
 伊良湖岬と志摩半島の鳥羽を結ぶ線は伊勢湾の入口にあたる。船の大きさが違うし当然船速も違うから単純には比較できないのだろうが、伊良湖岬からなら河和港も鳥羽港も同じ1時間の距離である。
  それで、鳥羽に渡ることにしたのだが、航路は伊良湖水道を経て神島などの島々を横目に見ながら伊勢湾を横切るように進んだ。

 2017年は、結局、知床半島を往復する知床岬航路、津軽海峡を渡る大間-函館航路に続いて3度目の海路となったが、岬好き灯台ファンにしてみれば、海上から見る岬もなかなか魅力的なものだし、船上から眺めれば灯台の有り難みが増してくるような経験だった。
 知多半島に渡っていれば三河湾沿いに名鉄電車で名古屋を目指す予定だったが、志摩半島に渡ってしまったので近鉄電車で伊勢湾沿いに名古屋に向かった。名古屋に着いてみれば、何のことはない当初計画通りの到着予定時間だった。

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(写真3 鳥羽へ渡るフェリー船上から見た伊良湖岬。波打ち際に灯台、高台に海上交通センター)