ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

近美から県美へ富山県立美術館

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(写真1 富山県立美術館の外観)
通称TADはアートとデザイン
 このたびの北陸旅行では当初から富山県立美術館に寄るのも計画の一つに入れていた。私は往き先々で美術館を見学することを楽しみにしているのである。
 美術館は、かつての富山県立近代美術館を継承しまったく新しく開設されたもの。富山駅の北口からバスで5分ほどだった。歩いても15分ほどのところらしい。富岩運河環水公園に接しており、付近はプロムナードにも適しているようだった。
 今年8月にグランドオープンしたばかりで、アルミをふんだんに使いガラスで覆われた外観はとてもモダンなものだった。
 美術館の通称はTAD(タッド)。つまり、富山アート&デザインということ。この通称が新しい美術館のコンセプトを如実に示している。アートとデザインをつなげるのが美術館の役割と位置づけているらしい。
 展示室は2階と3階にあり、コレクション展は2階3階にまたがって展示されていた。
 私は近美時代に2度訪れたことがあり、近代絵画の充実したコレクションに目を見張っていた。
 ところが、このたび訪れると、アートとデザインの展示がほぼ半々になっていて、相対的にアートの展示スペースが減ったように思われた。だから、再会を楽しみにしていたロートレックの「マンジの肖像」もピカソの「肘かけ椅子の女」もなかった。
 数多くのコレクションを展示するわけだから、展示替えのあることは当然だが、ここは約2ヶ月に1度の割合で展示替えを行うとのこと。地元の人が頻繁に訪ねて楽しむにはいいのだろうが、旅行者が見物するについては、展示替えのサイクルが短いことから必然的にあまりにもコレクションの展示が少なくて不満だった。せめて世界的名画くらいは常時展示していて欲しいと思った。
 これもデザイン関係の展示にスペースを取られたからだろうが、そのことに不満はない。このこと自体はこの県美のコンセプトであろうからかまわない。結局、絶対的スペースが足りないのである。折角立派な美術館を建てたのにもったいないことをした。
 アートとデザインの両方を展示するということでは、世界的にはミュンヘンのピナコテークがあって、ここは近代美術、現代美術、工業デザインの3館で構成されている。それぞれの館は富山県美の数倍もの面積だから比べることも無理なのだが、工業デザインの展示館であるピナコテーク・デラ・モダーネには机や椅子といった生活の製品のほか飛行機の展示まであるといった徹底ぶりだった。
 ここ富山県美のデザイン関係の展示室には、数十個もの椅子が展示されていた。中には座ってもいいという作品もあって、幾つか体験させてもらった。私はこういう家具にも興味はあるのだが、自分の書斎に置いて1時間程度の読書を楽しむという設定で探してみたら、残念ながら欲しくなるような椅子は一つもなかった。
 ところで、この美術館の素晴らしいことは、啓蒙的教育的活動に重点が置かれているということ。小学生のグループが訪れていて、あちこちで授業が行われていた。欧米の美術館でよく見かける風景だが、実際の作品を前に、生徒たちの感想と先生の解説とがぶつかり合って思わぬ理解に進んでいるようだった。しばらく立ち止まってやりとりを聞かせてもらっていたが、面白いのは子どもたちの突拍子もないような大胆な感想が飛び出してくること。
 また、館内には、アトリエなどもあって、この日は小学生がワークショップを行っていたが実に生き生きとしていた。
 ここまで書き進んできてふと気がついた。アートとデザインの展示室を巡っていて、小学生のグループがもっとも関心を持って大きな声で感想を述べ合っていたのは、実はデザインコレクションの展示室のポスターの前だった。そうか、年寄りの関心を満たすためだけに美術館を新しく建てたわけではないのだ。それよりも感性豊かな子どもたちを育てるのも大きな使命だったわけである。恥ずかしながら今になって気がついた。

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(写真2 館内でこういう授業風景をところどころで見かけた)