ABABA’s ノート

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ジェフリー・アーチャー『永遠に残るは』

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クリフトン年代記第7部完結
 クリフトン年代記が第7部をもってついに完結した。2013年にスタートした物語は、足かけ5年、各部文庫上下、合計14冊という長大なスケールとなった。
 イギリス南西部の港湾都市ブリストルとロンドンを主要舞台に、ハリー、エマ、ジャイルズを主人公にクリフトン家とバリントン家を軸に1920年から1992年に及ぶ壮大な大河ドラマだった。
 貴族の直系ジャイルズ・バリントンと港湾労働者の息子ハリー・クリフトンとの運命的な出会いから始まった物語は、二人は無二の親友として成長し、やがてジャイルズの妹エマがハリーの妻となって奔流のごとき物語となって膨らんでいく。
 物語の中心には、バリントン系の家業である造船や海運から銀行へとイギリス経済のダイナミックな流れがあり、その物語を牽引するのがエマであり、他方、選挙や議会、内閣などとイギリス政治の世界を渡り歩いているのがジャイルズであり、ハリーはベストセラー連発の人気作家となって活躍している。
 豪華絢爛、権謀術数、愛と憎悪が絡み合い手に汗を握らせるように物語はスピード感をもって進んでいく。ストーリーテラージェフリー・アーチャーの面目躍如たるところである。
 この間、多彩な配役が絡み合って物語は豊穣になっていくのだが、敵役として欠かせないのが、ジャイルの最初の妻であるヴァージニアで、徹底した意地悪として物語を深刻にさせている。そのヴァージニアが最後には泣かせてくれるからアーチャーも憎い。
 ここまで読んできて、すでに読者には第7部で完結するとは知らされていて、アーチャーがどのような結末を用意しているのか想像しながら読み進んできたのだった。
 ハッピーエンドがアーチャーらしくていいが、しかしそれでは単純すぎるし、自分なりに頭をひねりながら楽しんできたのだが、アーチャーの描いたラストはなるほどとうならせるもので、壮大な物語にふさわしい結末だったし、結局は、ハリーとエマの生涯をきっちりと描いていたのだった。

 第2部を読み終わったころだったか、舞台のブリストルとはどういう町なのか気になって、ロンドンに旅した折にわざわざ足を伸ばして訪ねたことがあった。ブリストルは現在も貿易都市として大きな存在らしいが、イギリスでも人気の町らしく大学の存在など歴史の重みを感じさせる落ち着いた町としての印象が深かった。なお、郊外の高級住宅街に近く深い谷を渡るクリフトン橋という立派な橋があって、あるいはクリフトン年代記の名前はそこからとったものかも知れないと思ったのだった。
(新潮文庫上・下)