ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

不動まゆう『灯台はそそる』

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灯台に寄せるほとばしる愛情
 著者は灯台女子であり灯台マニアだと自ら名乗っているが、いやはや灯台に寄せるほとばしるほどの愛情が素晴らしい。灯台に関する知識も深くて、ちょっと古い表現になるがまるで灯台博士だ。
 内容的には、灯台マニア養成講座であり、灯台知識基礎講座である。灯台の持つ奥深さに触れることができるが、本書の魅力であり重要なところは内容が極めて啓蒙的だということである。そういう意味では、本書は単なるマニア本を超えて灯台の社会的啓蒙講座でもある。
 第1章がいきなり「灯台の愛し方」とあって、レンズのことなど灯台鑑賞のポイントがやさしく解説されていて灯台の魅力がふんだんに紹介されている。
 ここまで読むと灯台に行ってみたくなるが、初めてでも楽しめる灯台が紹介されており早速実践講座へと入っていく。つい講座などと堅苦しく書いてしまったが、表現はやさしく丁寧だしとてもわかりやすい。しかも、灯台を訪れる道中に必要な6つの道具などというものまで紹介してあってとても親切。
 次が基礎知識編。灯台の役割から種類、歴史、構造などとあって灯台の光源にまで及んでいる。
 続いて、世界の灯台が紹介されているが、本書の特徴は「灯台守」について結構なページを割いて紹介していること。灯台守とは、灯台に住み込んで灯台の管理運用をする人たちのこととでも言えるのだろうが、現在は自動化によって常駐の必要はなくなっているとのこと。
 本書は、現在では死語になりつつある灯台守について、どのような仕事であり生活だったのか、かつて灯台守だった人たちを探し出してインタビューしている。このこと自体が貴重なのだが、そのインタビューが灯台守の人たちに対する敬意とやさしさににじみ出ていてとても印象深いものとなっている。
 そして、灯台はGPSの発達などによってその存立が大きく変化してきているもののようで、本書では灯台のあるべき姿にまで言及していて極めて啓蒙的な内容となっている。
 それにしてもこの灯台女子はすごい。本書で取り上げられた灯台を数えてみたらざっと170基ほどにもなった。見落としもあるだろうし、重複もあるだろうが、いずれにしても著者は言及した灯台のすべてに実際に足を運んでいる様子で、美しい写真も収めている。
 本書は灯台とは何か、その魅力を発信する内容となっているが、次作では是非灯台紀行を書いてもらいたいものだと思ったのだった。もちろん本書にもそのページはあったのだが、もっと本格的な紀行文が読みたいのである。
(光文社新書)