ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

釧網本線旅情

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(写真1 オホーツク海に面し茫漠たる原野を走る釧網本線の単行列車。深い旅情を感じさせる風景だ)
オホーツク海と花と
 東北旅行から金曜日に帰ってきて、土日こそ家にいたものの、月曜日からまた北海道旅行に出かけたら、出がけに家内から「また次の機会にもご遠慮なくお立ち寄り下さい」と痛烈な皮肉をユーモアたっぷりに浴びせられながら送り出された。
 さて、その北海道旅行では、念願の知床岬探訪を成し遂げた後は道東の岬を巡ったが、途中、釧網本線のオホーツク海沿いを一駅ずつ拾いながら走った。
 元来、私は鉄道は乗って楽しむのが流儀で、鉄道風景を列車の外から写真に撮って楽しむ流派ではない。ところがこのたびは、知床岬を訪ねるというまずは第一の目的のためには旅程は自動車を中心にする必要があったのだった。
 釧網本線は、釧路と網走を結ぶ路線だが、網走から知床岬を目指すと、途中、網走から斜里まではオホーツク海沿いに釧網本線と並行しながら国道244号線を走ることになる。この区間は、鉄道でよし車でよし、夏でよし冬でよしという、見どころの多い広い北海道の中でもベストな絶景ルートなのである。冬ならば、岸に押し寄せる流氷を車窓に望むことができるが、果たして夏はどうか。

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(写真2 花が咲き乱れる原生花園駅。奥は濤沸湖)
 7月3日、網走駅前を10時少し前に出発、鉄道時刻表をにらみながら車を走らせた。まずは原生花園駅へ。このあたり、釧網本線と国道244号線は、左をオホーツク海、右を濤沸湖に挟まれた狭い原野を走る。左の土手沿いに花畑が続いている。いわゆる小清水原生花園である。その延長は8キロにも及ぶだろうか。
 特に原生花園駅周辺が見事で多くの観光客で賑わっている。なお、原生花園駅は5月から10月の期間だけの臨時駅で、ログハウス風の木造のしゃれた駅舎に片面1線のホームがある。
 砂地の丘陵に木道が敷かれていて、6月から8月がハイシーズンなそうで、ちょうど色とりどりの花が咲いていた。その種類は数十種にも上るらしいが、私にわかるのは黄色いエゾキスゲやピンクのハマナスくらい。また、エゾキスゲよりも濃い黄色で赤みがかったのはエゾカンゾウだったか。いずれにしても短い夏の花畑である。
 原生花園駅からいったん国道を戻り一つ隣の北浜駅へ。ここはオホーツクに面した釧網本線7駅の中でも最も旅情に富んだところ。小さな駅舎が海を背にしてあり、大きな波がくれば飲み込まれてしまいそうなほどの至近距離に片側1線のホームがある。
 待合室にはおびただしいほどの名刺が壁はおろか天井に至るまでびっしりと貼られている。どの人も足跡を残したくなるそれほどの旅情を感じさせる駅なのであろう。また、駅舎にはカフェが併設されていたが、訪れた時間帯はオープンしていなかった。
  駅舎の隣には展望デッキが設置されてある。2階建てくらいの高さだが、正面がオホーツク海で、左右に目を転じれば、海沿いに走る釧網本線の鉄路が茫漠とした景色の中に1本の線となっていた。
 列車が接近してきた。網走発釧路行きの単行で、何かしら哀しげに見えた。北浜駅10時40分の列車で、快速「しれとこ」である。この列車をここ北浜駅でつかまえるために時刻表をにらみながら車を運転していたのだった。何しろ、この区間の運転本数は極端に少なくて、日中は3本しかなくこの列車を逃すと次は5時間後まで待たなければならない。
 北浜を出た列車をこのまま追いかけていったら、浜小清水駅でちょうど停車中のところをつかまえられたし、止別駅付近では原野を走行中のところを写真に収められたし、知床斜里駅では再び追いついたのだった。知床斜里は知床観光の拠点であり大きな駅。ここで網走行きの列車と交換が行われていたが、釧網本線はここでオホーツク海と別れ山間へと分け入っていく。
 日頃は列車は乗るだけの鉄道旅の多い私でも、このたびは列車を追いかける旅となったが、これはこれで楽しくて、もう一つ鉄道旅の面白さを発見したようなことだったし、何よりも釧網本線の旅情を深く感じることが出来たのだった。

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(写真3 浜小清水駅に停車中の釧路行きの列車)