ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

柚月裕子『検事の本懐』

f:id:shashosha70:20170425183011j:plain

魅力ある主人公
 薦める人がいて手に取った。ミステリーファンのようだから知っているだろうと言われたが、この作家のものは初めてだった。
 米崎地検刑事部検事佐方貞人を主人公とする短篇連作。5話で構成されている。
 佐方は任官3年目の検事。若いが秋霜烈日のバッジをつけるために生まれてきたような男との評判。「ぼさぼさの髪によれよれのスーツ。いまどきの若者にしては身なりに無頓着な男だ。若いが目に妙な落ち着きがある」と見られている。
 佐方がこのように紹介されて登場した第1話。米崎東署管内で連続放火事件が発生する。放火が18件に及び、警察に向けて世間の指弾が強まり、所轄に対する県警本部の罵倒が高まったさなか、執念の捜査の結果やっと犯人逮捕に至る。しかし、犯人は17件の犯行は自供したものの、13件目となる1件だけは頑強に否認した。その1件は、18件のうち唯一死者が出た事件だったのだ。
 捜査当局は、殺人も含めると罪が重くなるとして言い逃れのため犯人は否認したと判断、18件を一括して同一犯によるものとして送検したのだった。アリバイもなかった。
 送検されてきた事件を受け取った佐方検事が下した判断とは何だったのか。そこには「あいつは条件や証拠だけで事件を見ません。事件を起こす人間を見るんです」という信念が表れていた。
 なかなか情感豊かな小説で、主人公に警察と検察という違いはあるが、横山秀夫の情緒を連想させた。
(宝島社文庫)