(写真1 劇場で配布されていたパンフレットから引用)
劇団俳優座公演
岩手県とおぼしき三陸の海岸沿いの旅館が舞台。震災から3年というから2014年のことか。
夫婦で営むこの旅館。原発事故でふるさとを失ったという牛飼いの男と、何から逃げてきたのか若い女、そして家族を探して海沿いに歩いてきたという少女の三人は、すでに長逗留の様子。
周囲は津波で壊滅し、訪れる人とて稀なこの旅館に、流れ着くようにぽつりぽつりと人々がたどり着く。
遍路姿の男が投宿し、自殺を図った若い女が担ぎ込まれる。
曰くありげな人々ばかりで、物語が進むほどに人々は過去と向き合うようになっていく。
幽明の境が曖昧なままに物語は進む。どうやら旅館の存在自体が異界らしいではないか。彼岸と此岸との狭間で行き場を失ってしまった人々の哀切が伝わってくる。
舞台を引き締めているのは少女が歌う民謡。「南部牛追い唄」はクライマックスだったし、エンディングの「新相馬節」は物語の主題を貫いているようだった。素晴らしい歌いっぷりで、宮城県民謡大会優勝者という設定だったが、実際にもどうやらこの少女は田澤このかという民謡歌手らしい。
堀江安夫作、眞鍋卓嗣演出。両国のシアターΧ(かい)で上演されている。