ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

太田和彦『みんな酒場で大きくなった』

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居酒屋で一人酒
 著者は、『居酒屋味酒欄』などの著書もあり、今日の居酒屋ブームの先駆け的存在らしい。本書は、その著者が、6人のゲストと居酒屋で飲んだ対談集。
 ホスト太田の、静かなたたずまいと、無類のうんちくに、個性豊かなゲストの表情が引き出され、単なる居酒屋談義にとどまらず、市井の文化論になっているのが特徴だった。
 一人目は、俳優の角野卓造。場所は下北沢の「両花」。角野も一人で居酒屋に入ることが多いのだそうで、地方では日中に下調べをしておいて店を決めるといい、「昼の飲み屋街は風情がある」と角野が言えば、太田は「厚化粧した街の姿もいい」と返している。
 次が作家の川上弘美。場所は下高井戸「酒魚まきたや」。川上は『センセイの鞄』という居酒屋を舞台にした作品があるくらいで酒好きで知られるが、ぬる燗でアサリの酒蒸しを肴に話が弾んでいる。太田は『センセイの鞄』は頭の中だけで書いた小説じゃない「注文の仕方だとか、居酒屋に対する興味で読んでも面白い」と指摘、「居酒屋の入門書」でもあると讃えている。
 漫画家東海林さだおとの場面では、一人で居酒屋には入れないという東海林の問いに対しその秘訣は開店早々に入るのがいいとし、「すでに客がいて、雰囲気ができあがっている店は気後れしますが、開店直後だと店の人も喜んでくれますし」と答えている。また、居酒屋指南は続いていて、「居酒屋ではひと言も発しないのが達人」と極意を述べている。
 ほかに、作家椎名誠、作家大沢在昌などと展開していて、達者な粋人を相手にいかにも居酒屋談義らしく盛り上がっていた。
 私も旅先では必ず居酒屋を探す。旅は一人だから飲むのも一人。いい店はないかと酒場を行ったり来たりと流す。初めての町なら時に1時間も探し回ることもある。それに地の酒と肴。カウンターのある店が好ましい。寡黙ではあるが、親父や女将との会話もうれしく、思い出深いものになる。これぞ旅の楽しみの一つであろう。
(河出文庫)