ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

野口田鶴子さんの朗読

 

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(写真1 朗読する野口田鶴子さん)
宮澤賢治「鹿踊りのはじまり」
 野口田鶴子さんは朗読家。特に宮澤賢治を朗読させて当代随一であろう。賢治生誕120年の今年、折しも野口さんはイーハトーブ賞を受賞している。芸術的な朗読法を開拓し豊かな賢治世界を創造した貢献によるもので、過去の受賞者には天沢退二郎、池澤夏樹、吉本隆明、長岡輝子、井上ひさしらの名前が並んでいる。
 朗読会は、神田神保町の文房堂で開催されていた白堊芸術際の特別企画の一つとして開催されたもの。
 演目は、賢治の「鹿踊りのはじまり」。賢治の代表作『注文の多い料理店』所収の物語で、賢治の朗読で最も好まれる作品の一つ。これまでに長岡輝子らの名演が有名。
 野口さんの朗読は、独自の発声法による独特のもので、腹の底から絞り出すような朗読が特徴で、深い余韻が感じられた。作品の解釈が深く、方言の扱いも的確で、いたずらに誇張していない朗読が好ましかった。
 もっとも、野口さんは、盛岡一高の卒業で、賢治とは同窓の後輩。しかも、朗読家として30年。この間、賢治を語り続けてきたという実績がある。
 野口さんは音楽大学で声楽を学び、イタリアにも5年も留学していた声楽家だったのだが、途中、発声障害となり、朗読家に転向したとのこと。
 「鹿踊りのはじまり」は朗読時間で40分ほどの長い物語だが、野口さんの朗読は賢治世界に引き込まれるような語りに表情があって楽しいものだった。
 また、野口さんの朗読には伴奏があって、西洋古式演奏の専門家が、千年も前のハープや鹿革を張った太鼓からプサルターという珍し楽器まで駆使して演奏、朗読をいっそう味わい深いものにしていた。
 なお、この日は、賢治作品の朗読の前に、白堊芸術祭に出品した五行歌の朗読が行われた。野口さんのご厚意によるもので、7人の7首が朗読された。
 この中には不肖私の作品も含まれていて、一流の朗読家に朗読していただけるなど大変光栄なことで感激した。
 五行歌に限らず短歌や俳句などとおよそ日頃たしなんだこともなく、恥ずかしながら私の愚作も野口さんに朗読してもらうと立派に聞こえるからありがたかった。
 ちなみに、恥を忍んでその五行歌を次に記す。
 津波は引き波がこわいことは知っていた
 さらわれないために長押に掴まっていた
 この判断が正解だった
 猫二匹を胸に抱いて夜を明かした
 朝になると「朝だ朝だ」と口ずさんでいた

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(写真2 西洋古式演奏による伴奏で朗読)