隠蔽捜査3.5
人気の隠蔽捜査シリーズのこれは短編集。
隠蔽捜査シリーズは、警察官竜崎伸也を主人公とする警察小説。竜崎は、東大法卒、警察庁長官官房総務課長を歴任したキャリア組で、警察官としての位は警視長。現在は警視庁大森署の署長。本来は警視長という高位の警官が就く職位ではないが故あって勤めている。
そしてもう一人の主役級が伊丹俊太郎。警視庁刑事部長で、竜崎とは同期で警視長である。竜崎同様にキャリア組だが、竜崎がエリート中のエリートなのに対し、伊丹は私大卒で若干竜崎に対しひがみがある。また、竜崎があくまでも原理原則を第一義にする官僚タイプであるのに対し、伊丹は長く刑事部門を歩き現場主義がモットー。また、二人は小学校で同級生だった。
このように個性ある二人の警察官の活躍で展開してきた隠蔽捜査シリーズだが、本書の面白さは、隠蔽捜査シリーズを補完するエピソードがたくさん盛り込まれていること。二人の性格や手法、キャリアの積み上げ方などが隠蔽捜査シリーズをより色彩豊かなものとしている。
特に、本書は、伊丹の視点で書かれていることが新鮮で、これまでのシリーズにはなかったことだけに新しい角度からのエピソードが盛り込まれて面白い。
これまでのシリーズは、竜崎というエリート警察官が所轄署の署長として悪戦苦闘し、原理原則を貫くあまり軋轢を生み出している竜崎を、現場を知る伊丹が手助けするという構図だったが、本書では、一転、伊丹の悩みを竜崎がスパッと解明してやるという進み方になっていて、この二人のやりとりが本書の醍醐味である。
8編の短編が収録されているが、冒頭の「指揮」は、伊丹が福島県警刑事部長から警視庁刑事部長に栄転することになったところから始まる。それがこともあろうに後任の到着を待っていた前日殺人事件が発生する。伊丹は当然のように起ち上がった捜査本部に臨場する。
離任するまでに事件が解決すれば良いがそうでない場合にはどうしたらいいものか。やはり事件は解決できないまま新任地へ向かう日を迎える。しかし、現場主義の伊丹としては事件の解決まで見届けたい。悩む伊丹に対し竜崎が与えた助言が素晴らしい。
(新潮文庫)