ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

中西あきこ『されど鉄道文字』

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駅名標から広がる世界
 いやはや感心した。鉄道文字ばっかりに着目した労作である。鉄道もジャンルは広いが、鉄道文字だけで一冊の本になるとは驚いた。これぞまさしく書名通り、されど鉄道文字である。
 駅名標から行き先表示、車両番号などと駅ばかりかおよそ鉄道で目にする文字すべてを観察している。それも、日本に鉄道が走った当初からの文字の成り立ちにまで踏み込んで深く追求している。
 私も鉄道ファンであって、随分と日本各地、世界各地で鉄道文字には接していて親しみを持っているが、鉄道文字がこれほど奥深いものとはこれまで一顧だにしなかった。
 鉄道文字と言えば、「すみ丸角ゴシック体」(通称すみ丸ゴシック)が有名で私でも知っているくらいだが、これの由来が面白い。
 「国鉄が採用した書体は、筆文字と呼ばれる楷書体に始まり、昭和に入るとひらがなに国定教科書の字体が用いられ、戦後になった丸ゴシック体に変更された。そこへさらに修正を加えたすみ丸ゴシックが、東京オリンピック開催の四年前、昭和三十五年(一九六〇)に生まれる」とあり、さらに、「この変遷は単に見映えを整えるだけの道筋に留まらず、次第に乗客の視点に立って、いかに文字を見やすく、伝わるものに仕上げていくか、関わった人たちの試行錯誤をたどることことをも含んでいる」としている。
 実際、駅名標の書体は読みやすく、紛れがないし、動いている車内から見ても視認性がよい。
 ただ、旅をしていると感じることだが、駅名標も同じJRでも各社によって随分と違いが出てきた。字体もさることながら、標記している内容に変化が大きく出てきているようだ。
 本書によると、かつての駅名標は、「国鉄時代はひらがなで大きく書いたが、現在では漢字文字が主流になっている」とのこと。駅名に添える、駅が所在する都道府県市町村名をかつては必ず記してあったものだが、この頃では省くところが出てきた。
 だから、品川駅が、品川区ではなく、実は大田区にあるなどということが今日では駅名標からはわからなくなった。
 鉄道に乗っていて、現在何という町を走っているのか、どの駅で県境を越えたのかは是非にでも知りたいところ。このことを無視する路線にはいささか楽しみの一つがかける。
 私も出版編集に長年携わってきた一人。様々な字体書体をいじってきたが、確かにすみ丸ゴシックは馴染みがいい。
 本書のカバーに使われている書名の文字は、どうやらそのすみ丸ゴシック。やっぱり目立ちやすく、それでいて目にやさしい。なるほどと感心した。
 ところで、駅名標や駅構内のサインなどは視認性を考慮すると統一性が肝要なのだろうが、現在でも多様性が感じられるのは駅舎玄関に掲げられている駅名を記した看板。
 私は鉄道ファンではあるが、鉄道で旅をするのが好きな鉄道好き。様々な駅で降り立ち、駅舎を眺め、看板に目をやるのも楽しみの一つ。達筆な筆文字などを見ると歴史を感じさせてくれる。
 本書では、この駅舎に掲げられている駅名を記した看板文字には言及していなかった。次作では是非様々な駅の看板を紹介して欲しいものだ。
(鉄道ジャーナル社発行)