ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

演劇『松井須磨子』

f:id:shashosha70:20160816152304j:plain

(写真1=開催案内のパンフレットから引用)
栗原小巻の一人芝居
 8月14日葛飾区のかめありリリオホールで上演された。栗原小巻の一人芝居である。製作エイコーン、構成・演出加来英治、音楽監督・ピアノ城所潔。
 松井須磨子の生涯が演じられている。須磨子は、明治から大正にかけて活躍、わが国における新劇女優第1号とされる。
 舞台は、須磨子が与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」を朗じる場面から始まった。須磨子演じる栗原は長い詩を一気に吟じた。まずは日露戦争下の明治37年(1904年)という時代を設定するという意味があったのだと思われた。
 館内全体の照明が落とされていて薄暗い。非常灯までも消されているという懲りようである。舞台上には、もう一つ小さな舞台が構築されていて、一人芝居の場面切り替えをわかりやすくさせている。客席から見て舞台の左袖にピアノがあって、伴奏と芝居の進行を促している。
 「カチューシャの唄」が流れる。トルストイの『復活』の劇中歌であり、須磨子はこの芝居で人気女優となり、カチューシャの歌は大ヒット曲となった。
 それにしても栗原の歌がいい。舞台女優としてのキャリアも長いからセリフのすばらしさはもちろんだが、これほど澄んだ声色には感心した。オクターブの幅も広いし魅力ある非常に清潔な歌唱だ。
 続いてイプセンの『人形の家』の場面となり、主人公のノラが登場する。これも須磨子の当たり役だったようだ。
 場面転換は、栗原がコートを着替えることで観客に知らされる。このために小舞台上にはコート掛けがあって、数着のコートが掛けられてある。結局、栗原が着替えたコートは4着だったか。
 劇中劇もあって戸惑うこともあるが、一貫しているのは島村抱月との関係。二人は芸術座を旗揚げしたのだが、須磨子は抱月との不倫に走る。
 このあたりで、時代を先駆けた女の強さや、女性の自我意識の芽生えなどが一つのテーマとなっていることに気づかされたし、須磨子はロシアへの憧憬の強かったこともうかがわれた。
 抱月が病死するや、須磨子は後を追って自殺する。この自死を須磨子自身は殉死だと位置づけ、遺書に抱月と同じ墓に埋葬するよう頼む。それは叶わぬことだったが。
 照明が落とされていったん終わったかのような舞台に栗原は和服姿で戻ってくる。そして歌ったのが、いのち短し恋せよ乙女……「ゴンドラの唄」である。切ない思いが迫ってきた。
 会場では、90分を一人で演じきった栗原に対し万雷の拍手が続いていたが、確かに、古来、松井須磨子は数多くの女優が演じてきたのだろうが、栗原小巻こそがはまり役ではなかったか、そのように思えたのだった。

f:id:shashosha70:20160816152450j:plain

(写真2=万雷の拍手の中で迎えた終演の模様)