(写真1=会場で作品を前にみやこうせい氏)
フォークロアを写し出す
横浜市民ギャラリーで開催されている。横浜はルーマニアのコンスタンツァと姉妹都市という縁もあるらしい。
みやこうせい氏は、エッセイストでありフォトアーティストであり、ノンフィクションライターであり多面的な活動で知られる。
とくにルーマニアとの関わりは深くて、会場に掲示されていた作者紹介によると、みやさんはルーマニアには何と110数回も足を運んだらしい。そう言えば、代表作『マラムレシュ』(未知谷刊)はルーマニア北辺の村のフォークロアを描いて秀作だった。
そのみやさんによるルーマニアを描いた写真展。地平線に夕景が迫る羊の群れ、ペリカンが乱舞する大自然、深い谷間で羊をまもる少女の姿、羊飼いの親子の姿、などとあって、ルーマニアの自然や人々の暮らしなどが描かれていてこれはまさしくフォークロアだと感じ入った。
(写真2=深い谷間の村で羊の群れを見守る少女=会場で販売されていた絵はがきから引用)
そのどれもが、旅行者がたまたまシャッターチャンスを得たなどというものではなく、ルーマニアにおそらく数十年にもわたって入り込んだからこそ得られたといった作品が多く、一つひとつがずしりと重い手応えのものばかりであった。
また、写真の技術的なことはわからないが、構図や光線の具合などを緻密に計りながらも一瞬を切り取ったという印象のものが多くて、深い叙情を味わえるのだった。
会場でみやさんが話してくれたところによると、年に1度一瞬しか現れない現象をつかまえるべく5年も同じ月日同じ時間同じ場所に通ったなどというエピソードを聞くと、写真がもたらす感動の奥深さに震えるようだった。
ところで、前出の『マラムレシュ』には、 巻末に索引があって、それはまるでルーマニア民俗用語集のごとき趣きのものなのだが、そこから一語拾うなら、みやさんのルーマニア写真はさしずめ「ザディエ」(女性が身につけるエプロンの意)のようなものではないか、つまり、日常生活の中にもさりげないおしゃれを忘れないルーマニアの人々の民俗を写し出していると言えるように、勝手ながら思ったものだった。
(写真3=谷間の村の市。これはもうブリューゲルの世界ではないか=会場で販売されていた絵はがきから引用)