ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

残暑お見舞い申し上げます

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旅情 釧網本線北浜駅。オホーツク海に面した海辺の駅で、ホームからは潮騒が聞こえる。日中停車する列車は日に3本。静寂の駅舎の前に、ツーリングなのかオートバイが1台停まっていた。2006年9月22日撮影)
 8月13日は夏休みのため記事の更新は行いません(ページトップの写真は挨拶状に添付したカットのつもりです)。

御坊の紀州鉄道

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(写真1 御坊駅0番線ホームに到着した紀州鉄道列車)

日本一短い鉄道

 紀州鉄道の鉄道路線は、御坊駅から西御坊駅に至るわずか2.7キロの区間で、営業距離で日本一短い鉄道会社である。千葉県に2.2キロの芝山鉄道があるが、同鉄道は全列車が京成電鉄との相互直通運転を行っており、純粋には紀州鉄道が日本一短いと紀州鉄道側は謳っている。
 ともかく乗車してみよう。JR紀勢本線の御坊駅1番線に切り込む形で0番線ホームがあり、これが紀州鉄道。中間改札もなくすべて車内精算。まるで、JRから分離した第三セクター鉄道のような趣き。
 1両のディーゼル車。ワンマン運転。土曜の夕方だったが乗客は2名。16時27分の発車。
  御坊を出るとすぐに学問という面白い名の駅。続いて紀伊御坊、市役所前とあって、終点西御坊着16時35分。この間わずか8分。

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(写真2 紀州鉄道終着駅西御坊)

 西御坊がある種すごい駅。まるで民家に突っ込んだ様子で停車した。1両分のホームしかなく、今にも崩れ落ちそうな古色蒼然とした駅舎。全国の鉄道すべての終着駅で下車したことのある私だが、何度訪れてもこれは傑作だ。
 もちろん駅前広場などなく、すぐ目の前が道路。まるで路面電車の停留所のようでもあるがれっきとした鉄道線である。
 その目の前の通りが商店街になっている。私はこの日は御坊に泊まったのだが、肝心の駅前に飲食店はなくて、夕食はどうしたものかと案じていた。電車の運転手に聞くと、実際、御坊の駅前には飲食店は少なくて、紀伊御坊や市役所前の方が多少はあるという話。ただし、宿泊するホテルが御坊駅前だがと話を続けると、御坊の駅前少し引っ込んだところにも居酒屋があるとのこと。
 それで、安心したわけでもないが、結局、折り返し電車でも途中下車することなく御坊まで引き返した。日本一短い鉄道路線だが、その鉄道に乗る旅もまたまことに短いものだった。
 それにしても、この鉄道は儲かっているのだろうかと不思議になる。実際、営業係数は日本の鉄道会社のなかで最も悪いのだそうで、輸送人員も1日あたり200人程度らしい。
 そうなると、どうやってやっているのだろうかということになるが、この会社は不動産部門やホテル部門の収益が大きく、鉄道事業はほんのわずかのものらしい。
 そもそも、鉄道会社の信用が欲しくて、ある不動産屋がこの会社を買収したらしいから、鉄道事業の採算など初めから度外視していたものなのだろうか。
 ただ、この会社のホームページを開くと、なかなか豊富な内容で魅力的。鉄道事業のページもファンが少なくないらしいし、フォトコンテストなどと言うことまでやっている。ホテル事業では、なるほど、熱海や那須塩原、箱根強羅、片瀬江ノ島、諏訪湖、伊豆、軽井沢などにホテルを経営している。
 鉄道路線が生き延びていくことは大賛成だし、鉄道に乗るのに、いちいち事業形態を気にして乗っているわけではないのだから、安全に運行さえしてくれればそれはありがたい。

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(写真3 こちらはJR御坊駅。紀州鉄道に乗るからと言ったら、改札を通してくれた)

にぎわいの和歌山電鐵貴志川線

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(写真1 列車に乗ることが楽しくなる貴志川線の車内)

たま駅長は二代目に

 南海電鉄の小路線3線を和歌山市駅を中心に乗り歩いたあとは和歌山駅に移動した。
 和歌山市-和歌山間はJRの路線で、和歌山市駅は亀山駅を起点とする紀勢本線の終点駅である。和歌山市駅でJR線は2番線(1番線は欠番)からの発着。JRと南海との間で中間改札がある。
 和歌山市-和歌山間は2両編成による都市型通勤車両による折り返し運転を行っている。なお、和歌山市と和歌山との間にある紀和駅はかつての和歌山駅で、当時、現在の和歌山駅は東和歌山駅と称していた。
 和歌山駅は5面8線のホームを持つ大きな駅。紀勢本線のほか阪和線、和歌山線の終点駅である。和歌山市からの電車は8番線に到着した。
 和歌山電鐵貴志川線は9番線。JR各線との間で地下道で結ばれている。9番線ホームには中間改札があり、簡単な出札窓口がある。
 ホームには濃い赤色の2両の電車。うめ星電車の愛称がついておりいかにも。ほかにもいちご電車やたま電車、おもちゃ電車の愛称がつけられた列車が運行されており、親しみやすさが強調されている。
 車内も思いっきりしゃれている。鉄道車両デザイナーとして人気の水戸岡鋭治氏の設計になるもので、ロングシートの椅子も木製だし、床もフローリング。窓には竹を編んだすだれという凝りよう。ゆったりとした汽車旅を楽しみたくなる。
 実は、貴志川線は南海電鉄が経営する路線だったのだが、南海が採算難を理由に手放したところを、新たに設立された和歌山電鐵が継承したもの。和歌山電鐵移行後は輸送量が増加しているという。
 さて、和歌山を発車した列車は、和歌山市の郊外を東へと向かって走っている。土曜日だったせいか乗客には観光客が多いように思われた。車窓には特に大きな変化は少なかったが、稲は青々として生育は順調そうだった。
 途中、伊太祁曽(いだきそ)駅で列車の行き違いがあり、やってきた列車がたま電車だったから、写真に収めようとする乗客がホームで待ち構えていた。なお、この駅には車庫もあって、いちご電車が休んでいた。

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(写真2 スーパー駅長をカメラに収めようとする女性ファン)

 全線14.3キロ、駅数は起終点を含めて14駅。そうこうして終点貴志駅到着。大変なにぎわい。もとより猫のスーパー駅長たまが目当て。初代のたまは7年前に亡くなっており、現在は二代目の〝ニタマ〟。
 私が初めてこの駅に降り立った際には、たまはベンチにのんびり座って眠っているだけだったが、その後人気は上昇してたまに会いに来るだけの乗客が増えて、駅長からさらに社長代理にまで出世していたのだった。
 二代目がいつ就任したのかは定かではないが、あまりの人気ぶりにガラスのケースに鎮座しているような次第だった。
 貴志駅は駅舎も凝っていて、檜皮葺屋根は猫の顔を模しているのだった。また、駅舎内にはたまカフェやショップもあって、観光客であふれかえっていた。

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(写真3 貴志駅。猫の顔を模した檜皮葺屋根)

南海加太線

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(写真1 さかな線の愛称もある加太線の車内。つり革もさかなの形)

愛称は〝さかな線〟

 和歌山港線から帰ってきて加太(かだ)線に乗り継いだ。加太線は紀ノ川駅と加太駅間が線区だが、すべての列車は和歌山市駅発着となっている。沿線には新日鐵住金和歌山製鉄所もあり和歌山市への通勤路線となっている。
 加太線は、和歌山市駅3番線からの発着。2両のワンマン運転。電車。

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(写真2 和歌山市駅3番線に停車中の加太線電車)

 電車はピンク色。車内も同じくピンク色と明るい。〝さかな線〟の愛称がついていて、つり革の持ち手もさかなの形になっている。また、車内には広告が1枚もないのには感心した。
 10時55分和歌山市を発車すると間もなく紀ノ川を渡った。大河である。左前方遠くには製鉄所も見えたが、鉄橋のトラスが邪魔をしていい写真が撮れない。
 和歌山市駅を出て次の紀ノ川駅までは本線。ただし、すべての列車は和歌山市発着である。ここから左にカーブして加太線内に入った。
 紀ノ川駅-加太駅間8.6キロ、駅数は起終点含め8駅。沿線には住宅が多い。単線であり、中松江で列車の行き違いが行われた。磯ノ浦で左車窓に海が広がり、沖待ちをしている大型船が数隻見えた。
 そうこうして11時19分終点加太到着。2面2線のホームだが、使用されているのは1面1線のようだ。
 小さな駅だが、近くには海水浴場もあり、それらしいグループが数組下車した。通勤路線であり、行楽路線でもあるようだ。
 また、加太は紀淡海峡に面しており、地元では本州と淡路島を結んで海峡幅11キロを渡る紀淡連絡道路に期待があるようだ。

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(写真3 加太駅の様子)

南海和歌山港線

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(写真1 和歌山港駅の南海フェリー連絡通路)

南海フェリー四国航路連絡線

 多奈川線を往復したあとはいったん和歌山市駅まで出た。途中には加太線があるのだが、ダイヤの都合で和歌山港線に先に乗ることにした。このあたりは工夫のいるところで、旅程を組むのに苦労したが、あうでもないこうでもないと時刻表をくくるのは鉄道旅行の楽しみの一つ。時に〝名作〟や〝傑作〟も生まれるから面白い。
 南海本線は、大阪のなんば駅と和歌山市駅を結ぶ64.2キロの路線だが、和歌山市駅からはさらに和歌山港駅まで伸びていて、この区間が和歌山港線。
 和歌山市駅は、南海とJR西日本の共用駅で、管轄は南海。JRとしては駅員配置はなく、南海としては本線や和歌山港線などが発着するターミナルとなっている。ただし、和歌山市駅と和歌山駅とを結んでいるのはJRのみで、南海としても和歌山駅まで延伸する計画は消えてはいないようである。
 1903年の開業と古く、すでに115年の歴史を有する。南海和歌山ビルがターミナルビルだったが、このたび訪れてみると新しい駅ビルの建設工事中だった。まだ工事が始まったばかりなのか、鉄骨の姿も見えなかった。
 ホームは7番線まであり、和歌山港線は7番線発着。6番線ホームの一部を切り込んで設けられている。ただし、なんばから和歌山港まで直通する特急列車サザン号は4番線が発着ホーム。

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(写真2 和歌山市駅4番線ホーム)

 さて、和歌山港線。和歌山市10時10分発。なんば発の特急サザン号で4番線から。編成の和歌山港寄り先頭4両が普通車使用の車両だった。
 路線は、紀ノ川の左岸沿いになっていてわずか一駅で終点和歌山港。1面2線の高架ホーム。営業距離は2.8キロである。
 ホームからはフェリー乗船待ちの車が列を作っているのが見えたが、駅からも連絡通路でフェリーターミナルとつながっており、南海フェリーの四国航路が和歌山港と徳島港を結んでいる。和歌山港駅で下車した旅客の大半はこの連絡通路を渡って行った。
 和歌山港線のダイヤもフェリーの運航と連絡できるように組まれており、1日8便の運行。
 例えば、なんばを7時10分発のサザン号に乗ると、和歌山港着が8時15分で、和歌山港8時30分発のフェリーに連絡でき、徳島港に10時35分に到着する。フェリーの乗船時間は約2時間ということ。大阪と四国を結ぶ貴重な路線ということができる。

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(写真3 和歌山港駅。高架に見える列車はなんば行き特急サザン号)

南海多奈川線

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(写真1 多奈川線の終点多奈川駅)

全線2.4キロ4駅の小さな路線

 このたびの紀伊半島一周の旅では、岬と灯台巡りを楽しんだほか、大阪からは南海電車、和歌山からは紀勢本線に乗り、途中下車を繰り返しながら沿線の小路線を一つずつ乗りつぶしていった。7月21日。
 まずは、南海多奈川線。南海の支線の一つで、本線のみさき公園駅から多奈川駅を結んでいる。この間営業距離2.4キロ、駅数は起終点を含め4駅のまことに小さな路線。戦時中、軍の要請で軍需工場従業員の輸送を目的に開業したという。

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(写真2 みさき公園5番線で発車を待つ多奈川線電車)

 みさき公園5番線9時05分発多奈川行き。2両のワンマン運転。電車。なお、5番線は多奈川線線内折り返し運転の専用ホーム。
 大阪湾に向かっていく路線で、途中、深日町、深日港と続く。深日と書いてふけと読ませるのは難読駅である。深日港の駅前には岬町役場の庁舎が見えた。また、かつてはここから淡路島に渡るフェリー路線があった。沿線には宅地が続いていた。
 そうこうして9時11分多奈川着。この間の乗車わずかに6分。多奈川駅にはかつては2面3線のホームがあったようだが、現在は片側1線しか使われていない様子だった。
 駅からのバス便には、重文に指定されている大日如来像を本尊とする興善寺や、秀吉の木像を保存してある理智院があるらしいが折り返し電車で戻った。
 結局、多奈川線は、みさき公園-多奈川間を往復する線内折り返し運転の路線で、全列車2両のワンマン運転。

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(写真3 行き止まりの終着駅らしい多奈川駅構内)

熊野灘と遠州灘を分かつ大王埼灯台

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(写真1 大王崎に建つ大王埼灯台)

志摩半島の灯台②大王埼灯台

 安乗埼灯台からはいったん鵜方駅まで戻り、続いて御座港行きバスに乗り換えた。ここからは志摩スペイン村行きバスなども出ていてちょっとした拠点になっている。乗車約15分で大王埼灯台下車。停留所は漁港にあってここから徒歩10分ほど。
 ちょっとした観光地で、訪れる人も多く灯台に登る坂道の途中には土産物屋が軒を並べている。

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(写真2 白堊円塔形の美しい灯台)

 坂を登り切ると白堊円塔形の美しい灯台が眼前に迫っている。20メートルを超して背も高く堂々としていかにも灯台らしいたたずまいだ。
 ここも参観灯台で、200円の協力費を払って登楼することができる。灯台が観光の大きな力となっているようだ。内部の階段を使って回廊に登ることのできるいわゆる参観灯台はこれまで全国に16しかなかったが、今年に入って下北半島の尻屋埼灯台も参観灯台の仲間入りしており、今後の灯台の立ち位置を考える上で重要な方向だろう。

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(写真3 灯台回廊から展望する美しい景観)

 灯台は志摩半島の東南端に建っていて、熊野灘と遠州灘を二分している。左右をぐるっと見渡すと、小さな岬や島影が連なっていて美しい景観となっている。真っ青な空と紺碧の海に浮かぶ緑の島影は絵画的風景だ。
 眼下には岩礁が頭を出しており、海面に隠れた暗礁も多いのだろう。海難事故が多かったようだから、大王埼灯台は貴重な海の道標だったのだろうとは容易に察せられた。また、背後には大王埼の街が迫ってきているのがわかった。
 灯台に登る入口の頭上には、鋳物製のいわゆる初点銘板がはめ込んであって、それには初点昭和2年10月、改築昭和53年12月とあった。意外にも新しくて、大王埼灯台は全国的にも知られた人気の灯台だからこれは驚いた。
 灯台には付属舎があって、現在は展示室となっていた。ここには建設当時の第4等フレネルレンズが展示してあって、その動きが再現できるようになっていたから興味深かった。
 この灯台の最大の特徴は、白と赤の光を交互に発するということ。つまり、専門的には単閃白赤互光といい、毎30秒に白1閃光赤1閃光し、光度も白250,000カンデラ、赤47,000カンデラとなっているようで、灯器はLU-M型、電球はメタルハライドランプとのこと。
 また、展示室には灯台を見分ける光り方という解説があって、灯台は船や街の明かりとはっきり区別できるような光を出していること、隣同士の灯台が同じ光り方をしないように光の色と光る間隔を組み合わせてそれぞれの灯台だけの光り方を作っていると述べてあった。
 また、ランプを点灯させたままでレンズ自体を回転させレンズの中心が向いた方向に強い光(閃光)を出す閃光レンズや、レンズは回転しないでランプを点けたり消したりして明暗光・閃光などを作る不動レンズという2種類のレンズを紹介していて、とても啓蒙的な活動で感心した。
 なお、大王埼灯台付近には絵描きが多くて、あちこちにイーゼルを立てている姿が目立つ。特に高校生の姿が多くて、部活の合宿だという。そう言えば、ここは2度目だが、10年ほど前に来たときにも絵描きの姿は多かった。灯台は格好の題材なのであろう。

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(写真4 絵描きの多い大王埼灯台。灯台は格好の題材だ)

<大王埼灯台メモ>(海上保安庁/燈光会/日本財団が設置した看板等から引用)
 所在地/三重県志摩市大王崎
 位置/北緯34度16分34秒、東経136度53分58秒
 塗色・構造/白色塔形コンクリート造
 灯質/単閃白赤互光 毎30秒に白1閃光赤1閃光
 実効光度/白250,000カンデラ、赤47,000カンデラ
 光達距離/白色18.5海里(約34.3キロメートル)、赤色17.5海里(約32.4キロメートル)
 高さ/地上から灯台頂部22.5メートル、水面から灯火45.53メートル
 管理/鳥羽海上保安部